新しい星
地球が滅亡して、もう何年が経ったのだろう。
突如として訪れた氷河期に、生き物はあっという間に死滅した。ごくわずかな数の人間だけが命からがらロケットで脱出し、なんとか生き延びているのである。
そして今、人類は火星に住んでいた。
ちょうど氷河期のタイミングで、火星への移住準備が整っていたのは不幸中の幸いである。人類はそこで、持ち込んだ植物を育て、動物を育て、火星を第2の故郷にしようと奮闘していた。
火星の生活において最も貴重なもの。
それは水である。
火星にそもそも水はない。地球から持って来た水を使い、排出した水は再利用する。さらには水素と酸素を、火星の外にある宇宙空間から持ってくることで水の供給を満たしていた。
水の給水部隊は、少年たちの仕事だった。
身体が小さく、宇宙空間で動きやすいし宇宙服も大人より小さいサイズで済む。
だが少年たちの中には、この暮らしを望まないものがいた。
「生まれた時から火星にいるのに、どうも息苦しいんだ」
それが彼の意見だった。
周囲は彼のことを訝しんだ。自分の意見が伝わらない生活に、彼はますます息苦しさを感じていった。
「よし、それじゃあ頼んだぞ」
今日もまた、少年たちは水の素材を取りに行く。望む、望まないは関係ない。命令に従って彼らは宇宙へ飛び立った。
しかしー
突如として彗星が彼らの間を突き抜けた。
彗星はそのまま火星に突っ込んで爆発し、少年たちは遠く飛ばされてしまった。
どこまでも、どこまでも。
1人の少年は、意識を失ったままずっと飛ばされ続けた。
やがて少年は目が覚めたが、そのまま身体を動かすことはなかった。
「どうなってもいい。このままどこまでも行ってやる」
真っ暗な中を少年の身体が駆け抜けていく。銀色の星たちが動いてるのか自分が動いているのか、判断がつかなかった。
そうしてやがて少年はまた意識を失った。
目が醒めると、緑の大地と青い空。
見たこともない世界。
「あぁ、やっと息ができる」
少年は初めて笑って、マスクに手をかけた。