コールセンターの恋人
受話器を置いた彼女は、ゆっくりと微笑んでパソコンに話した内容をメモに取った。
彼女のデスクに置かれた席札には、こう書かれている。
『マクロ社お話課』
側を隣の課の先輩社員が通る。
「またクレーム処理?大変ね」
皮肉っぽく笑うと、返事も待たずに通り過ぎて言った。
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コール音がしてからぴったり10秒。
僕は深呼吸をして準備する。
「はい、マクロ社です」
彼女の声は少し高くてすごく細い。
受話器から花が咲いたのかと、毎回本気で思う瞬間だ。
「それでね、今回の掃除機はすごく良かったよ。特に吸い込みがいいね。角の汚れもすっきりしたよ」
僕の話に、彼女はくすくすと笑った。
「ありがとうございます。こだわったかいがありました」
彼女の声は、フワフワしていてどこか透明。
雪みたいだと、いつも思う。
一通り、良かったところを熱弁し終わると、彼女は最後に言う。
「じゃあ、次はどんな機能がほしいですか?」
僕はうーんと唸って考えた。
「コードレスだといい」
なるほど、そうですね。と彼女は答えるとそろそろ時間が来たようだ。
待ちに待ったこの時に、僕は受話器をぎゅっと握りしめる。
「ありがとうございました。次の改良の参考にさせて頂きます。それじゃあ、次は私の番ね。今日はね、ランチですごく美味しいお店に行ってね…」
彼女の声は弾み、雪解けの春のようにうららかになる。
なんて幸せな時間なんだ。
早く次の商品を買って、またかけよう。
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「あそこ、クレーム課じゃないですよ」
「商品に関するお客様の感想を聞いてるんですよ。それでそのあとは、彼女が好きなことを話すんです。」
「凄い人気で、それ目当てで商品を買う客もいるんだとか。」
「えー!?」
遠くで男性社員が先輩に声をかけている。
先輩は今日一番の大声を上げた。
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