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ポコタンの初恋

たぬきのポコタンは一世一代の恋をしていた。
相手は山の麓の中学校に通う、人間の女の子。
さぁ、ポコタン。
君の想いは届くかな?




ポコタンは毎日、中学校の下校時間に彼女に会いに行く。
でも人間に姿を見られたら捕まって殺されてしまうかもしれない。
ポコタンはこっそり排水口に隠れて、そうっと顔をのぞかせていた。


「お腹空いたねー」
「なんか買い食いして帰ろうよ」
彼女は運動部に入っていて、いつも汗をいっぱいかいていて、お腹がすいていた。
「美味しいっ」
食べたときの彼女の弾ける笑顔が、ポコタンは大好きだった。



そんなある日、排水口で工事が行われた。
そこでポコタンは仕方なく、少し離れた柿の木の後ろから彼女を見守っていた。
その時、がさがさっと音がして大きなカラスがポコタンのいる木から飛び去った。
ポコタンは驚いて腰を抜かしてしまう。
すると、木からころころと柿が1つ転がり落ちた。
「あれ?」柿が落ちてるよ」
声が間近に聞こえて、ポコタンが振り向くと彼女が柿を手にとっていた。
そして迷うことなく柿にかじりつく。
「わぁ。美味しいっ」
これだ!
ポコタンは意気揚々と家に帰った。



次の日から、彼女の帰り道には柿が2つ落ちているようになった。
1つは彼女に。もう1つは彼女の友達に。
優しい彼女が友達と一緒に食べられますように。

「最近、いつも柿が落ちてるね」
「狸か何かが、置いてるんじゃない?」
彼女と友達が辺りをきょろきょろと見回す。
ポコタンはそれを影からじっとみつめていた。
一瞬彼女と目があった気がしたけれど、すぐに彼女は別の方を向いてしまった。

「美味しいっ」
それにしても彼女の食べる姿は、いつだって可愛い。
柿をとるのは、木登りが苦手なポコタンにはとても大変だったけれど、彼女の笑顔をみると疲れも吹き飛ぶのだった。



ある日ポコタンは、告白を決意した。
ポコタンは頭に葉っぱを1枚のせる。
「変化!」
お爺にならった変化の術で、ポコタンは人間の男の子になった。


どきどきしながら彼女を待つ。
手には柿を2つ持っていた。
緊張して、手からは汗がにじみ出つづけ心臓は飛び出しそう。
やがて、彼女と友達がやってくる。
「あれ?いつもの柿のところに、誰かいる?」
彼女が一人駆け寄ってきた、その時。


強い北風が、ぶわっと二人の間を吹き抜けた。
「はっくしょん!」
「はっくしょん!」
ポコタンと彼女は同時にくしゃみをした。
思わず、二人は顔を見合わせる。
しかし次の瞬間、ポコタンの変化の術は、くしゃみでふっと溶けてしまった。



たぬきの姿に戻ってしまったポコタン。
慌てて柿を放り投げ、山の中に逃げていった。



残された彼女の頭に、ひらひらと変化の葉っぱが落ちてくる。

「待ってよー」
追いかけてきた友達が、彼女の頭に乗った葉っぱをみて指さした。
「なあに?それ」


彼女は葉っぱを手に取った。
紅葉したモミジの葉っぱ。
きれいな赤色の上に、すすけた泥がついている。
彼女は山の中をみつめながら答えた。

「ラブレター、かな」




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