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作れないもの

かめちゃん、というのが彼のあだ名で、甕を持ち歩いているからだとか、のんびりしているからだとかがその由来らしい。
かめちゃんは大学の先生で、錬金術師だった。

就職活動の結果は散々で、僕は心底自分にうんざりしていた。
学校の芝生に寝っ転がって空を見ていても、ずっと面接とエントリーシートのことばかり考えてしまう。
こんな時は、と僕は徐ろに立ち上がる。
こんな時は、かめちゃんの部屋に行こう。

かめちゃんの研究室は、大抵誰かいる。
今日はみっくんとやっちゃんがいて、2人とも僕に気づくとおーいと手を振った。
「就活、どっか決まった?」
「全然だよ。もう辞めたい」
となりの椅子に座ると僕はかめちゃんの方をみる。
かめちゃんは黙って甕の中の液体を混ぜている。
かめちゃんが真剣なことが分かったので、僕たちはしばらく静かに見守った。

「そろそろ仕上げる。電気を消すよ」
かめちゃんが電気を消すと、どこに隠れていたのか、部屋中に橙や青、赤色の光が灯りだす。
これは空気中の発光石だ。
錬金術に使う素材は、空気中にごく稀に含まれるこの発光石を使う。石ではなくて元素なのだけれど、光った時に石のようにみえるから発光石と呼ばれていた。

かめちゃんは長い指で、パチ、パチンと発光石を採っていく。
触ると瞬間、電流が通るらしく火花が飛ぶ。
色とりどりの光が金色の火花を散らして消えていくさまを、僕たちはぼんやりと見つめていた。

「錬金術って何でも作れるの?」
僕はかめちゃんに聞いてみた。
「まぁ、だいたい作れるよ」
かめちゃんは甕から目を離さない。ずっと甕をかき混ぜている。
「作れないものってある?」
僕がそう問いかけると、うーんと少し手を止めて言った。
「同じものは作れない。」

同じ構成のものは作れるけど、全く同一のものにはならないのだそうだ。
うまく言えないんだけどね、とかめちゃんは珍しく困った顔で言った。
「だから、君のことも作れないよ」
そして、かめちゃんは僕たちの前にカタンとお皿を置いた。
カレーだった。
「かめちゃん、ずっとカレー作ってたの?」
僕たちは思わず全員立ち上がって、それから腹を抱えて爆笑した。
かめちゃんもふふふ、と笑う。
「でも今日のカレーは今日しか作れないよ」


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