一番星の妖精
手を繋いで、円になって、目を瞑った。
さぁ、私たちの願いをかなえよう。
制服はどうしてスカートが長いんだろう。
仕立て屋さんのレジでお金を払いながら、美緒は考える。
規定の長さで着ている人はほとんどいない。
仕立て屋さんがお金を稼ぐための陰謀なのかしら、と訝しんでいると、レジの後ろの階段から真菜が降りてきた。
「おまたせ、行こっか」
私たちは今日、妖精に会いに行く。
真夏の青空は、遠くしか仰げない。
真上なんて見ようとしたら、目が潰れることは確定だ。
そもそも妖精を見に行こうと言いだしたのは紗里奈だった。
国語の教科書に出てきたお話で、妖精は一番星が昇る瞬間に森の入り口に現れると書いてあった。
何より紗里奈が意気込んだのはその後の文章だ。
『妖精は気まぐれで人の願いを叶える』
私たちは3人とも好きな人がいて、3人とも片思い。
そこでこれはチャンスとばかりに、妖精にこの恋を成就させてもらうことにしたのだった。
「付き合ったら、彼と一緒に帰りたいなー」
「私はお揃いコーデでデートしたい!」
もう付き合った気になって、妄想を語り合ったのが昨日だ。
森の入り口に着くと、すでに紗里奈が待っていた。
「走ったら早く来すぎたー」
つかみどころのない話し方で飄々と答える。
夕暮れの太陽が色づき始めて、3人はそろそろだね、と身構えた。
そもそも一番星が昇る時間がわからなかったので、とりあえず日の入りから暗くなるまで願い続けよう、という事になっていた。
美緒はどきどきして、身体が震えた。
「手、繋いでようよ」
3人は手を繋いで円になり、目を瞑った。
さぁ、私たちの願いをかなえよう。
気づくと、すっかり暗くなっていた。
おそらく一番星は昇りきっただろう。
「やっぱり、こないよね」
美緒はがっかりしながらも少しだけ安心する。
「一番星が昇る時間ってなんだよー。曖昧だよ」
「自分の力で両思いになるもんねー」
口々に言い合って笑いながら、少女たちは森を後にする。
月明かりが彼女たちの背中を照らし、それはまるで羽根のように浮かんでいた。