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7つの首の亀

『その亀、七つの頭を持ち、七つの海を泳ぎきり、七つの罪状を喰い尽くさん』


あるところに、大変嫉妬深い女がいた。
女友達が美しいと、彼女はこんな風に考える。
「あの子、私より美人だわ。許せない。」
そして酷い言葉で友達を傷つけ、少しだけ気分が晴れるのだった。

職場では人事通達の度に地団駄を踏んだ。
「どうして彼が昇進するの?私の方が相応しい」
彼女は、昇進した男の悪い噂を立てて、退職に追いやった。

家にいるときも、彼女は常に自分と他人を比べている。
「隣の家はうちより裕福だわ。どうして私はこんな貧乏な家に生まれたのかしら」
彼女はそう言って、彼女を大事に育ててきた両親に対して、罵声を浴びせるのであった。

ある日、彼女はこんな噂を聞いた。
『隣町の海に、七つの首を持つ亀が現れた。その亀は、嫉妬の心を食べて生きている。食べさせた暁には、その者の願いを叶えてくれるらしい。』
彼女はそれを聞いて狂喜した。
「まさに私のために存在しているような亀だわ。早速探しに行かなくちゃ」
彼女は全てを放り出し、すぐに海へと出かけていった。


しかし、探しても探しても亀はみつからない。
それでも彼女は諦めることはなかった。
やがて7日めの夜のこと、彼女がいつものように海辺を歩いて探していると、遂に亀は現れた。
海から顔を出してゆっくりと近づいてくる亀は、月の光を背に受けて、7つの首をもたげている。
これは化け物だわ。
彼女は恐ろしさと喜びに震えて、にやりとした。

彼女は亀に近寄りこう囁く。
「ねぇ、私は大変嫉妬深い女よ。私の嫉妬を食べなさい。その代わり、私の顔をあの女のように美しく、私の地位をあの男のように高く、私の家をあの家のように裕福にしてちょうだい」


亀はゆっくりと彼女の方に向き直った。
7つの顔にある全ての目が、一斉に彼女をみつめる。
「なんと嫉妬にまみれた女よのう。」
そして、彼女の頭からつま先までをぺろりと舐めた。


たちまち、彼女の願いは叶えられた。
顔は美しい女性のものとなり、職場の地位は上がり、家も裕福になった。
でも、それだけだった。

たわいのない話ができる友達も、助け合える同僚も、彼女を愛する家族も何もかも、彼女が持っていた他の全てのものは去っていった。


そこにはもう、何も無かった。


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#小説
#今日は何の日

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持田瀞 Mochida Toro
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