設計図のコピー__2_

ミルフィーユ

今から100年以上も経った遠い未来。
ロボット工学は目覚しい発展を遂げました。
それにより多くの人間は働く必要がなくなり、労働のほとんどをロボットが行うようになりました。
そんな世界で、唯一人間の働くケーキ屋さんがあります。
そこは今日も、ロボットに大人気です。


お店の前には長蛇の列。
店頭のガラスケースに入れられたケーキたちは、ロボットたちに次々と買われていきます。
なんといっても、ロボットたちに人気なのはミルフィーユ。
この店では、厨房の様子がガラス貼りで見える仕様なのですが、ミルフィーユを焼く時間になると、ロボットたちがわんさか集い、ガラスの中をじっとじっと見つめるのでした。


そんなある日、店の見習いの若者が、ガラスに張り付いたロボットたちの一人にこんな質問をしてみました。
「君たちはなんでそんなにウチのミルフィーユが好きなの?ロボットが作るお店の方が、美味しいって人間には有名だよ」

するとロボットはこう答えました。
「私たちにも、正確にはよく分からないのです。
ですが、ミルフィーユはパイ生地とカスタードクリームを重ねたもので、人間が作るには手間のかかるケーキですよね。
パイ生地の上に、クリームを載せて、またパイ生地を載せて、クリームを載せて、の繰り返し。
さらにパイ生地を作るには、また別の工程が入ります。
小麦粉にバターを混ぜて、練って練って重ねて、練って練って重ねての繰り返し。
それなのに、まるでそんなこと思わせない姿で、当然のようにガラスケースに並んでいる。
そんなミルフィーユみると、何故か私たちロボットは堪らなくなるのです」

ロボットは胸に手を当てて、言葉を噛み締めるように目を閉じました。
見習いの若者も、ふーん、と胸に手を当ててみました。

ミルフィーユの焼けるいい匂いがしてきます。
「美味しい匂い」
若者が目を開けて言うと、ロボットもふふふ、と笑いました。
「ここは、素敵なお店です」





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持田瀞 Mochida Toro
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