秘密基地
ぷかぷかぽっかり浮かべ泡
ザクザクバックリ掘れよ穴
君らと僕らが合わさって
やがて大きな渦となる
やがて大きな風となる
海が愉しそうに今日も歌っている。
僕は海の中にゆっくりと沈みながら、彼らの歌を聴いていた。
眼を閉じそうになる僕を、カンちゃんが肩を叩いて制止する。
ウェットスーツにマスク、シュノーケルなどの装備を身につけた身体をもぞもぞ動かし、身振り手振りで伝えてくる。
「また歌を聴いているのか?」
こっくり、僕は頷いた。
彼らの歌が聴こえるようになったのは、いつからだったろう。
普通に考えると、海が日本語で歌を歌う訳がない。もしかしたら、僕が頭の中で歌っているのかもしれないとも思う。
「お前は人の話を聞くの、得意だからなぁ」
カンちゃんはいつだったか僕にそう言った。
「得意じゃないよ。興味の無いことは聞かないし」
僕が言うとカンちゃんは、それそれ、と頷く。
「その代わり、興味があるとトコトン、なんだよなぁ」
そこでサトルも話にやんややんやと入ってくる。
「その上、興味の範囲が深くて広い」
深くて広い。僕は、あっと声を上げた。
「海みたいだ」
2人はにこにこと満足気に僕を指差す。
「お前の頭の中は海みたいだ」
海の中で何をするかは、本当に個性が出る。
サトルはさっきから魚を追いかけては一緒に泳いでいる。
でも魚はすぐに逃げていく。
僕はその様子をみていつも笑ってしまう。
カンちゃんは水中カメラマンだ。
その日の海は一期一会だ、と言って愛おしそうに写真を撮っている。
僕?
僕は海の中の物たちを見るのが好きなんだ。
それは生き物に限らない。
海の底にある砂も岩も深い溝も、この星の歴史だと思うだけで、どんなに見ても飽き足らない。
そろそろ陸に上がる時間だ。
カンちゃんが上を指差す。
僕が彼に従おうとすると、また海の歌が聴こえた。
まだまだまだまだ。
波が海になるまでは。
海が陸になるまでは。
僕らの歌を届けたい。
君と一緒に歌いたい。
「名残惜しいけど、もう帰るよ」
僕は心の中で別れを言うと、いつものようにせっせと泳ぎ3人で地上に戻って行った。
数時間ぶりの音のある陸の世界。
風を全身で感じながら浜辺にあがると、僕らの元に近所の少年たちがやってきた。
「お帰りなさい。今日はどこに行ってたの?」
どこ?海の中のどこかって?
うーんと僕が首を傾げていると、カンちゃんが僕の横から顔を出す。
「秘密基地」
わーっと声を上げて興奮する子どもたち。
「海の中にあるの?いいなぁ!」
「ねぇ宝物はあるの?」
サトルが答えた。
「あるのはね、浪漫だよ」
なにそれー?と子どもたちは楽しそうにはしゃいでいた。
カンちゃんもサトルも、一緒になって笑っている。
あぁ、海の歌に似ている。
ふとそう思った。
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