見出し画像

文字の起源

遥か太古の昔、文字は無かった。
人々は言葉をより多くの人に、より長い時間届けたいと願った。
そこへ1人の女性が現れて、文字の泉の存在を教えてくれた。
なんでもそこでは、言葉を泉に向かって発すると文字に起こしてくれると言う。
人々はこぞって文字の泉を探したが、ついには見つからなかった。


「みつかったか?」
木陰から出てきた少女は、悲しげに首を振った。
少女の弟がいなくなってから2日が経とうとしていた。
弟はすぐに何処かへ行ってしまうのだ。
村人総出で探すのは何度目だろう。

少女はふと、村人は立ち寄らない森の奥が気になった。猛獣が多いのだが、弟は行きたがっていた。
少女は思い立つやぱっと駆け出した。
「だめだ!そっちは危ないぞ!」
大人達の静止の声は耳に入らなかったことにした。

どうしていつもこうなるの。
自分以外の息遣いがあるのを感じながら、少女は必死に走る。
このまま走り続ければ、帰り道が分からなくなるだろう。

と、その先に突然石づくりの大きな祭壇が現れた。
そして祭壇の前には弟がぼんやりと立っていた。
少女はふう、と一息ついて天を見上げる。
夕焼けが森を眩しく差している。
少女は弟にゆっくり近づくと、その手を握って言った。
「みーつけた」

祭壇を登ると、噴水があった。
どうやら祭壇の中を水が循環する仕組みらしい。
二人はとりあえず水を飲んで落ち着いたが、辺りはもう真っ暗だった。
「朝までここにいようか」
二人は噴水のそばで眠った。

少女が眼を覚ますと、月明かりが噴水の水を照らして、ゆらゆらと光が揺れていた。
「綺麗…」
少女が噴水にそう声をかけると、ゆるりと水が動いてなにかの形になって、弾けた。
少女は驚いたが、何度か繰り返すうちに形には一定のルールがあることに気がついた。
ああ、そういうことか。
少女は朝まで水の形を変え続けた。

翌朝、弟が目覚めると石畳には水でたくさんの模様が描かれていた。
「いい?これから出かける時は、どこに行くのかをこの模様で家の前に書いてから出かけてね」
少女はおはようも無しに、弟に声をかける。
弟は寝起きの身体をんーっと伸ばして笑った。
「姉ちゃん、楽しそうだねぇ」


#ショートショート
#小説
#NAOKO
#あなたに捧ぐ物語




お読み頂きありがとうございます⸜(๑’ᵕ’๑)⸝ これからも楽しい話を描いていけるようにトロトロもちもち頑張ります。 サポートして頂いたお金は、執筆時のカフェインに利用させて頂きます(˙꒳​˙ᐢ )♡ し、しあわせ…!