七夕ランデブー|ショートショート
本日の天気は快晴、絶好の七夕日和。
七夕は、織姫と彦星が年に一度会える日だと、幼い頃に教わった。それも晴れていないと会えない、と。
織姫にも彦星にも思い入れは無い。
それでも何故か、七夕の日は晴れると嬉しい。
少女は夜の空を、眺めていた。
熱を冷ますために、湯上りに部屋の窓を開けたのだ。
ひゅ、と風が吹いて、気持ちが良かった。
少女の小さな部屋は、あっという間に涼しくなる。
そろそろ、と窓を閉めようとしたところで、ふと、キラキラとしたものに気がついた。
それは細い銀色で、よく見ると梯子のような形に編まれ、ゆらゆらと窓の端に揺れている。
こっちへおいで。
まるで、そう言われているかのような。
少女は誘われるがままに、銀の梯子を上ってみた。
梯子はどこまでも続いていた。上っても上っても先が見えない。
もう戻ろうかな。
そう思った頃、梯子が、ぐーんと上に引き揚げられた。
すごい力、すごいスピード。
少女は落ちまいと、必死に梯子にしがみ付いていた。
揚がった先は、宇宙、まん丸い星の上だった。
建物は何一つとして無く、視界に見えている地平線は、ここがはっきりと球体の星だと分かるほどに曲線を描いていた。
「やあやあ、大物が釣れた。」
そこへやって来たのは、見知らぬ少年だった。先程の銀の梯子を手に束ねている。
「これは釣り用の網なんだ。君はこの網に引っかかっていたんだよ。」
そして少年は自らの名前を名乗った。
少女も名乗ると、ウンウン、と少年は頷き
「よろしく。」
と握手した。
少年は、星を案内してくれた。
クレーターが、そこかしこにある灰色の大地。
小さな湖のそばに、ハンモック。
「釣りが趣味なんだ。これは一本釣り。」
少年は、釣竿を手に取ると、近くにある、トゲトゲとした石を糸の先につけ、ぽいっと放り投げた。
石はどこまでも投げられたまま、投げられっぱなし。
地面に落ちることなく、この星を飛び出して、やがて見えなくなってしまった。
ここから先は少し待つんだ、と少年は言った。「それまで、君の話を聞かせてよ。」
少女は日々の暮らしを話した。少年は余程珍しいのか、終始可笑しそうに嬉しそうに聞いていた。
それでもその内話すことが無くなり、互いに無言でぼんやりした。
すると、ようやく釣り糸がグイグイと引かれた。
少年と少女が二人で釣竿を引っ張ると、そこには見たこともない手のひらサイズの生き物が引っかかっていた。
二人は目を輝かせて、暫し見惚れた。
その後、少年はスケッチをした。
少女はその生き物に話しかけ、湖の水を汲んで与えた。
二人とも満足すると、少年が、今度は糸だけを生き物の身体に結んで、ぽいっと外に放り投げた。
「元の場所に帰したんだ。」
少年は言った。
「そろそろ、君も帰った方がいいね。」
少年の言葉に、少女は首を振った。
「でも、この星も君の星も動いているから、どんどん離れて行ってるよ。このままだと帰れなくなるよ。」
少女は悲しくなってしまった。
少年は、光る石を一つ拾って叩き割ると、光が石から溢れ出した。光を掬って、少女の髪を優しく撫でると、少女の髪は銀色に輝いた。
「僕の星と君の星がまた近づいた時、この光を目印に、今度も網を投げるよ。」
やくそく、と二人は小指を繋いだ。
少年が、少女の手首に網を結んだ。
少女は天に向かってジャンプした。
するとそのまま、ぐーんとどこまでも飛び出した。
来た時と同じ。すごい力、すごいスピード。
振り返ることは、出来なかった。
少女は眠ってしまった。
翌朝、少女が目を覚ますと空は昨日のまま晴れていた。
なんだか、凄く良い夢を見た気がする。
けれども、どんな夢かは上手く思い出せない。
髪だけが、やけにツルツル、キラキラしているようで、可笑しかった。