母のシャクナゲ
かあさんはシャクナゲが好きだっけど、山野草であるシャクナゲはなかなか庭で咲かなかった。花を育てるのが好きな伯父さんが仕事の行き帰りに掘ったものを分けてくれることが多かった。
「かあさん、悪いことばっかじゃないよ、大丈夫だよ」
伯父さんはちょっと運が悪く、不器用で愛想もいい方じゃなかった。
だけど、伯父さんの庭はいつもきれいだった。
えりものおばさんは、かあさんがシャクナゲが好きなのを知っていたから、自分が貰った苗の半分を送って寄こした。枯れたと知ると、また、送ってくれた。小ぶりだがしっかりとした苗が3本。かあさんは、いつも植えている道路側だけでなく反対側にも植えた。そこは段差があり、隣の畑に行くには階段を10段くらい降りていく。風通しも見通しもいいところで、シャクナゲを手入れしながら堤防の様子が見えた。かあさんは思わずシャクナゲに話しかけた。
「ここなら景色もいいしょ、がんばるんだよ」
かあさんは小さくため息をつく。住んでいないのだから、水をやることもできず嵐のときに風よけもしてやれない。多分、山野草だから花壇では冨栄養過ぎたのかもしれない(負ける、という)。山と違って虫や病気もあるのかもしれない。
「かわいそうだからもういいわ」
次の年の正月に、かあさんはねえさんに言ったのだという。
それを聞いていたのか、いないのか、前の夏に植えたシャクナゲのうち、弱弱しく思えた株が枯れずに冬越しした。庭で初めて冬越しした株は花をつけずにその夏を過ごした。花壇の端っこ、風も当たる、ちょっと厳しい場所に当たってしまった1本だった。
そして、その翌年、たくさん花をつけた。
ふつうは数輪から始まって、年々花数が増えるものなのに。
うちの庭に相性のあるシャクナゲだったのだろう。みんなはそう言って喜んだ。
かあさんは花の向こうに伯父さんを見ていた。その年の冬は厳しく幾つも葬式があった。伯父さんもその一人だった。
「かあさん、悪いことばっかじゃないよ」
といつも言ってくれた伯父さん。伯父さんが残してくれたのかもしれない。