早春山菜、三つ葉
春になると、牧場の周りに三つ葉が生える。この三つ葉をかあさんがとても楽しみにしているので、とっちゃんは春早くに取りに行く。どこの牧場のどの日当たりがいいのか熟知しているからそこだけを目指して行く。効率のいいこと間違いない。
牛のふんはとてもいい堆肥で、まあるく三つ葉が株を作る。もちろん牛のふんは冬を越して疾うに分解されているから上等の土と化している。瑞々しくておいしい三つ葉は大人気だ。
余りたくさん持って帰ってもかあさんは喜ばない。
駕籠一杯の収穫は、帰り道、知り合いのおばさんに声をかける。
「ありがとね、この時期によくあったねぇ」
おばさんもホクホクだ。
家に着くころにはちょうどいいくらいの三つ葉の量になり、
「やっぱりとっちゃんが一番早いなぁ」
と、歓迎される。この10倍の量だったとはかあさんは知らない。
次の日、おばさん方から
「昨日、とっちゃんにもらってね」
と言われて『あらあら』となる。
三つ葉の次はウド、小さい葉っぱ、たらんぼ、薇、こごみ、ワラビと移っていく。根こそぎ取らないようにして、仲良しのおばさん方にいきわたるよう、ちょうどいいくらい山奥に入ってちょうどよく楽しんだら、家に帰る。
家に帰りつくと、ちょうどよく朝食が待っている。
そうそう。春になると、かあさんに声がかかって、早朝からデメン(仕事)に行ってしまうから、姉さんが朝食の用意と弁当を作ってくれている。
このあたりの村では遊んでいる人はいない。みんなデメンに出る。そうでない日は自分ちの田んぼや畑、近所・親戚の農作業(お互いに労力を出す)で汗を流す。とっちゃんちは公務員だけど、かあさんもねえさんもときに駆り出される。小学生のとっちゃんにも声がかかることがある。
春から秋まで。雪が解けて雪が降るまで。野外の仕事はタイミングだ。冬になるとかあさんがご飯したくしたり、布団を仕立てたりして家にいる。嬉しい季節だ。