豚小屋の上
とっちゃんのうちでは、納屋に豚を飼っていた。
正月用のごっつおうになる。
納屋の屋根はトタンですごく熱くなる。だから葡萄を這わせて日陰を作り、季節が来たら家族のデザートになる。食べきれないほど生るのだから、近所も楽しみにしている。
とっちゃんは葡萄の陰に隠れてつまみ食いするのが好きだ。熟れたのだけを一粒ずつ選って食する。口に入れるとぎゅっと潰れて葡萄の香りが口いっぱい広がる、うん、このあじ、この味。トタン屋根はそれなりに熱くなるけど、この甘さには代えられない。
多分、肥料も良かったんだ。
おてんとさんがさんさんと当たって、葡萄は丸々と育った。いい色に染まって虫も食べに来てた。
後年、庭にブドウ棚を作り、最高品種の苗を買って、とっちゃん自身で思うかぎり丹精込めて世話してるのに、
「あの時のがうまかったんだよなぁ」
と、とっちゃんは言う。
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