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ドラマ10『宙わたる教室』最終回|ゆっくりと心に染みわたる物語


穏やかで、それでいて情熱的で。遠い夜の空に溶けていくように心に染み込んでいくドラマでした。


主人公の教師が熱血ではない、
元ヤンキーでもない、
生徒たちに毎話熱く語りかけたりしない。


寡黙で、一歩引いたところから見守る定時制高校教師の窪田正孝と、科学部の生徒たちを中心とした、新しいタイプの学園ドラマ『宙わたる教室』が最終回を迎えました。


授業中はもちろん、科学部が活動する時間は夜。
太陽が届かない教室はいつも暗く、様々な事情を抱えた生徒たちの痛みが詰まっているようで、最初は見ているこちらまで苦しくなる時もありました。
けれど、科学部のみんなが「火星を作りたい」という気持ちと学会発表を目指してから、その薄暗い教室には希望が溢れ出します。


学会発表の日、いつも通りの格好で来た科学部のみんなを見て「あ、この子たちはもう揺らがないんだな」と思いました。
以前、別の発表会を見学した際に、彼らが私服であることや年齢層がバラバラであることで周囲から注目を浴び、居心地の悪い思いをしたことがありました。
それでも学会発表の日、彼らは私服で、いつも通りの自分たちで参加したんです。「私たちらしくていいんじゃない?」といつも通り笑う彼らは、所在なさそうにしていた以前の彼らではありませんでした。


実験を重ね、教室に「火星を作る」ことに成功した彼らは、自分たちの実験にも、自分たち自身にも自信を持てたのだと思います。


物語のクライマックスとなる発表会。
小林虎之介の「私たちは、教室に火星を作ることに成功しました」というインパクトのある掴みから、会場内の興味を一気に集めた発表は立派でした。
そして何より、質問に答えるスピーチがよかったです。


虎之介「科学の世界とは無縁だった俺を、物理準備室の扉の前に連れてきたのは顧問の先生です。俺は先生に誘われて、そのドアを開けた。それがこんな場所につながってるなんて、思ってもみなかった」

……号泣。


そう、窪田くんが科学部を作ったことが全ての始まりでした。
勇気を持ってあのドアを開けたから、科学部の彼らは今ここにいます。
けれど、本当はもっと前から始まっていたんじゃないかな?とも思いました。


定時制高校に通っている生徒たちには様々な理由があります。


高校に行ける時代じゃなかった。
家計を支えるために教師になる夢を諦めて16歳から働いていた。
体の不調で教室に行くことすら難しかった。
字が読めなくてずっとバカにされ続けてた。


それでも、彼らは定時制高校に来た。


だから私は虎之介に、科学部のみんなに言いたい。


先生に誘われて科学部のドアを開けられたのは、あなたが「勉強したい」「学びたい」という純粋な気持ちを持って、定時制高校に通っていたからだよ。忙しくても不安でも、通うことに決めたことから、全ては始まったんだよ。
あなたたちの「学びたい」「勉強したい」という気持ちが、全てをスタートさせたんだよ。


あの薄暗い小さな教室で、毎日実験を重ねた彼ら。
仕事をした後、読み書きの教室に行った後、店の仕込みをした後、授業を受けた後、遅くまで実験を重ねた日々。睡眠時間を削り、体が辛くても、楽しいと思えた時間。


「毎晩小さな教室で試行錯誤してきた俺たちの実験は、今日でみんなの実験になったんだと、そう実感しました」という虎之介の言葉に号泣。
こいつ、なんていいこと言うんだよ!!!!


彼らの発表にJAXAが興味を持ち、自分たちの研究に参加してほしいと言われる展開はまさにドラマ!
凄すぎるよ、科学部!!!


でも「いや〜これはドラマだからね〜」とならないのは、こちらが実話をもとにしているから。
定時制高校の科学部が科学研究の発表会で優秀賞を受賞し、「はやぶさ2」の基礎実験に科学部として参加することになったという実話があるからなんです。


これが実話ではなくてももちろん感動すると思うんですけど、実話がもとになっていることで、ドラマがより力強いものになっていると思います。


辛くて、苦しくて、寂しくて、逃げ出しそうになった時もあったけれど、
そのドアを開けたら、ワクワクして、楽しくて、夢中になれる時間が増えていった。
何もなかった自分も「夢」を見られるようになった。


穏やかで、情熱的で、
静かで、力強くて、
そして果てしなくやさしい。
誰かの背中を押す力を持ったドラマでした。


正直、初回を見た時はそこまで特別に面白いと思っていなかったですし、主題歌もそこまでいいと思っていませんでした。
それが回を重ねるごとに、先生と定時制高校の彼らのことを知っていくごとに、どんどん好きになって、ドラマも主題歌もゆっくりと心に染みわたっていくようでした。


お互いがお互いの背中を押し合った2人


『宙わたる教室』のことを考えると、なんとなく夜空にチカチカと微かに輝く星がイメージされます。


藤竹先生も、柳田くんも、
アンジェラさんも、佳純ちゃんも、長嶺さんも、要くんや舞衣ちゃんも、
みんな絶対今も頑張っていると思える。


もう科学部のみんなに会えない寂しい気持ちと、
みんなのように明日からも頑張ろうという気持ちをくれた『宙わたる教室』でした。


おしまい。


名取佳純役の伊東蒼ちゃん、めちゃくちゃ演技うまかったですよね?!
もう彼女は本当にこういう子なんじゃないかと思うくらい自然で、佳純にしか見えませんでした。別のドラマでヤンキー役でも演じられた日には私はショックで倒れるかもしれません。
と言いつつ、別のドラマでまた彼女を見るのが楽しみです!


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