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浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』 | それでもあいつを褒めてやりたい

2021年に刊行されるやいなや様々なランキングを席巻、 現在までに累計40万部を突破している浅倉秋成による大ヒット小説『六人の嘘つきな大学生』。
オーディオブック化、舞台(リーディングアクト)化、漫画化、ラジオドラマ化され、秋には浜辺美波主演で映画公開予定。


おいおい、どんだけメディアミックスしてんだよ!とツッコミたいくらい人気の作品。本屋でいつも目の端に入りながらも、浅倉秋成さんの本を読んだことがなかったので何となく手が伸びずにそのままにしていましたが、文庫カバーが映画仕様になっていて、リクルートスーツでも可愛すぎる浜辺美波の笑顔に釣られてついに購入しました。

……ちょろすぎ!!!そんなことで購入する奴ってほんとに存在するんですね。
「こういうカバー(実写化の人が載っているやつ)って逆にテンション下がるわー」とか言ってた奴誰だよ!(あ、私です)


さて、あらすじはこちら↓

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。


「究極の心理戦」「圧倒的クオリティかつ怒涛の伏線回収」「密室サスペンス」「青春ミステリ」等々、煽り文がハードルを挙げてきますが、そのハードルに見合う怒涛のどんでん返しが楽しめます。


物語の主人公は、ある注目企業の最終選考に残った6人。
最終選考は、6人でこの会社のある問題点についてディスカッションすること。ディスカッションの内容によっては全員の内定もあり得る、ということで、6人は最終選考に備えて仲を深め、どのような課題が出ても対応できるよう準備を進めます。


※こういう話は結末を知ってしまうと格段につまらないと思うので、絶対本読まない!という本嫌いの方以外は読破してから戻ってきていただけたらと思います。


この6人、読んでるこっちが落ち込むくらいレベルが高いです。容姿よし、学歴よし、性格よし、文句なしのド一軍。偏差値の高い大学に在籍しているだけでなく、物事の考え方や進め方もとてもスマート。
そりゃあすごい会社の最終選考に残るわ。そりゃあ私なんて絶対残んないわ。と、一度でも就活したの多くは(就活楽勝だったわー!って方以外は)遥か昔の就活を思い出して胸が痛むのでご注意ください。


就活って不思議ですよね。私は歳の離れた兄がいるんですけど、これがほんとに優秀でして。
塾は高3の秋から通っただけで地元の公立高校から有名大学に合格。ついでに、明るくてスポーツも得意なコミュニケーションおばけ。今はもう少なくなったミスター〇〇になったり、大学ではサークルや団体を立ち上げたりと、本当に同じ兄妹なんかと思ったくらい違う人種です。(でも不思議と歳を取ったらめちゃくちゃ顔似てきました……)


そんな兄は大学院に進む予定だったので就活してなかったんですけど、勝手に会社側から案内資料が届くんですよ。(今思えば個人情報ダダ漏れすぎて怖いわ)
毎日毎日大量に届く企業からの手紙を、兄の部屋の前に置かれたどでかいダンボールにポイポイ入れるのが当時の私の仕事でした。姉が必死に就職活動していたのも見ていたので、人によってこんなにも違うのかと子供心に思ったもんです。


あの捨てても捨てても溜まっていく、大量の封筒を今でも時々思い出します。ほぼ封も開けられないままゴミになった封筒は、誰かにとっては、私にとっては、第一希望の企業だったかもしれないなとだいぶ後になってから思いました。


ちなみに、私のところにはもちろん1通も届かなかったので、自分からせっせとネットで企業の情報を見て、エントリーシートを書きまくるごくごく一般的な就職活動を行いましたよ!


ということで、兄のような一部の人を除き、ひたすら企業に自分をアピールし、ひたすら振るい落とされていく、それが就職活動です。


自分の長所を盛りに盛って伝え、それ長所とも言えるんじゃない?という短所を言う。会社でやりたいことを、夢みがちな答えに思われないように答える。
この人と働きたい、こいつを取りたい、と思わせる。学歴、話し方、外見、全て含めて、雰囲気含めて総合的に判断される。
みんな大なり小なり自分をよく見せるために偽る。


この6人もそうでした。最終面接のディスカッションではそれぞれの罪が暴かれ、読者は彼らに幻滅します。

ああ、やっぱりね。そんな完璧な奴いるわけないよね。
頭がよくて、性格もいいわけないよね。

彼らのある一面を見ただけで、多少の僻みもあって彼らが本当はそういう嫌な奴だと決めつけます。


けれどそれだけでは終わりません。
いいと思ってた奴が本当は嫌な奴で、
嫌な奴かと思っていたら本当はやっぱりいい奴で、
読者は彼らに対する印象がコロコロ変わります。


というか、変わらなかったらすごい。
私は作者の意図する通りどんどん変わってしまい、変わっているということは、私がある一面だけを見てその人のことを勝手に「この人はこういう人だ」と判断しているということです。


例えば芸能人の不倫報道やセクハラ記事を見たら、ああこの人はそういうことをする最低の人なんだ、と思い、
会社の人の噂を聞けば、そんな人だったんだ、意外だなとその人への印象を修正する。


この本は、そんな人の一面だけでその人のこと判断している傲慢な自分に気づいてしまう本です。


物語のラスト、6人の内、最終選考で1人だけ秘密を暴露されなかった彼女は、事件の真相を突き止めていた彼の秘密を最後に知ります。
そして彼が「腹黒大魔王」というあだ名だったことを思い出すのです。


「腹黒」って何なんでしょうね。
誰だっていい評価は欲しいし、人によく思われたい。
心の底から溢れ出る優しさや爽やかさ、自己犠牲の精神だけで成り立っている人なんて、どのくらいいるのでしょう?
苛立ちや嫉妬、自分の方が幸せになりたいという気持ちを隠して、押し込めて、周囲に優しくする。


彼は自分の好きな人の秘密が表に出ないよう、無実にも関わらず「犯人」となった。
でも。
彼は自分が受かるために、好きな人の秘密を暴露しようとした。
でも。
しなかった。本気でしようとしたかもしれない。
でも。
結果しなかった。
しなかったところが、彼の本質だと私は思います。


普通の大学生が精一杯背伸びをして、格好つけて、彼女のために結局秘密の暴露をしなかった。彼女には「犯人」と思われたままだった。それでも彼女たちに本当のことを知って欲しくて、メッセージを残した。


なんて等身大のいじらしいヤツなんだ。
よかった、最後彼女に「好きだった」と言わせたぞ。(すまん、正直彼女がどういう気持ちで言ったのかはわからん)
周りの人間が「腹黒大魔王」なんて呼ぶとしても、私はお前が好きだよ。偉いよ。言おうとして、結局言わなかったところが偉い。ちゃんと立ち直って、大企業に就職して、働いてきて偉かった。
お前は偉いよ。お前はすごいよ。誰が何と言おうと、お前はめちゃくちゃすごい奴だよ。

と居酒屋で酒を飲んで、泣きながらあいつに言いたい。
泣き上戸だと思われるかもしれないけど、全部本音だよ。私は「よく頑張った」とあいつを褒めてやりたい。
私が「お前、ほんとに幸せだった?」と聞いたら、「いろいろありましたけど、幸せでしたよ!」と答えてほしい。


ということで、私は誰が何といおうと、あいつを褒めたいと思ったラストでした。

誰が誰かわかります?


ところで、今回は完全に映画のキャストを想定して読んでしまったので、赤楚くんを好きになりそうになりました。なんか彼は尋常じゃなく、報われない役が似合いますよね。あんなにイケメンなのに何でこんなに報われない役が似合うんだ。


赤楚くん、幸せになるんだぞ!
(世界で1番の余計なお世話)


おしまい。

兄が30過ぎてから「ほんとそっくり!」と言われることが多くなったんですけど、あれどういうつもりで言ってます?
オッサンに似てると言われて嬉しい女がいるわけないでしょうが!!!


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