ホテルの窓から
私は昔から、窓から外を眺めるのが好きだった。
電車でも学校でも家でも窓があれば、大抵窓から外を眺めていた。なにか理由があるわけではない。
ただ、つまらない自分の日常を紛らわす、いわば暇つぶしのようなものだ。
窓から見える光景は、人、風景、様々だが、どれにもなにかストーリーがある気がした。窓から外を見るときは、そのストーリーを想像しながら過ごすことがほとんどだった。
街の電気屋さん、手をつないで歩く親子、放置されたたくさんの自転車。
そんな一見ありふれた光景にも、おそらく何かしらのストーリーがあることを想像した。
その日私は、ものすごく小さな窓をあけ、わずかなすき間から見える高速道路をぼんやりと眺めていた。
「何してるの?窓なんか開けて」
後ろから声が聞こえて、そっと窓を閉めた。
「ううん、なんでもない。」
何をしているわけでもないし、こんなところで何をしているのかも、よくわからない。
ただ、私は自分に価値が欲しかった。
あなたは生きているだけでその価値がある。命を大切に。
そんなことをどこかで聞いたことある。自殺防止のポスターだったか、はたまた、いじめ相談のコールセンターのキャッチコピーだったか。
でも私にはそれがわからなかった。
もちろん自分が死んだら親や数少ない友人は悲しむかもしれない。
だが、生きていて、価値はあるのか?
何かを生み出しているのだろうか?
そんなことを考えているとき、自分の肉体には価値があることを知った。
学校に向かう電車の中、制服越し、おしりに暖かさを感じた。
触られている。
直感的にすぐわかった。
そして、自分は意外にも冷静だった。
ネガティブな感情がなかったわけではない。
ただ、自分の体を触りたい人がいるのか、という驚きが後々自分の中で大きくなった。
数年後、私は今、知らない人とホテルにいる。
帰り際、渡される3万円。
私の価値。
自分の目で確認できる、私自身の価値。
こんなことをいつまで続けるんだろう、と考えながら、帰りの電車の中で、窓から外を眺めていた。
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