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今度は果たすぞ、夏の雪辱(9・了)
試合終了の礼を終えると、子ども達は、走って整列して、
応援スタンドにいるおうちの人たちへ、大きな声で
「ありがとうございました!」
と、そろったお辞儀をした。
見事な優勝だ。小学校生活の集大成は子どもたちだけではない、
支え続けて一緒に関わり続けた家族にとっても、
一つの節目だし、だからこそこの優勝はみんなが嬉しかった。
Yくんの家族は、今日はおばあちゃんもお姉ちゃんも妹も応援に来ていて、
家族勢ぞろいだったのだが、最後万度でしっかりと締めくくったY君の姿は、
家族みんなにとってうれしい姿だっただろう。
Yくんだけでなく、チームの子とそのご家族みんなにそれは言えることだ。
準優勝になった相手チームの先発ピッチャーだった子は、
ベンチでボロボロ泣いていた。勝者の裏には敗者は必ずいて、
きっとあの子にとってこの敗戦は、次の成長につながる起爆剤になるのだろうなと思うと、
応援席から見える景色は、喜びと悔しさがどちらも一面に描かれて、
なんてドラマチックなのだろうと、感じた。
閉会式になって、成績発表と授与式が行われる。
賞状と大きな優勝旗を、キャプテンのOくんと、副キャプテンのK君が受け取り、
チームのみんなの胸には金メダルもかけられた。
準優勝チームには、盾とメダルで、3位のチームには賞状と盾だ。
それらの贈呈が終わると、球場アナウンスが流れた。
「・・・・尚、優勝チームには、今大会のスポンサーになっています〇〇商社より、副賞として、マクドナルドでの食べ放題権も、授与されます。おめでとうございます。」
本当に全くそのことを聞かされていなかった子ども達、
優勝したこちらのチームの子ども達は、ざわざわと目を合わせ合ってから、
やった!やった!と喜び始める。準優勝チームの子ども達は、
「・・・まじかぁ・・・。そんないいことあったんかぁ・・・。」
と、本当に何だかみんな試合後よりも悲しそうな顔になっている。
いやもうこの副賞、優勝旗よりメダルより効果絶大じゃないか。
笑いながら閉会式を見ていると、
その後の講評などもう子ども達は完全に集中しきれていなくて、
精悍な野球少年が、いつもの学校で見ている子ども達に戻ったようで可愛かった。
閉会式が終わり、グラウンドの整備が終わると、
優勝したうちのチームの子ども達は、
順番に優勝旗をもっている姿や、メダルをもってポーズを作った写真を撮ってもらって過ごしている。
これも優勝した嬉しいオプションだよね。と思いながら眺めていると、
「ととろんせんせーい!こっちきてー!」
とYくんと6年生の子たちが呼んでくれた。
「いいんですかね?僕入っても。」
周りのお母さんたちに確認すると、
「もちろんですよ。先生行ってやってください。」
と言ってもらったので、子どもたちの所へ行って、おめでとうを伝える。
そしたらYくんが、なんと優勝旗をもってきてくれて、
「先生も、優勝旗の写真とっとこ。」
とにっこり笑って差し出した。
こうして、Yくんたちの頑張る姿を見せてもらえただけでも、
仕事冥利に尽きる果報者なのに、優勝旗まで持たせてもらえるなんて、
と、心の中では恐縮したが、子ども達の嬉しそうな雰囲気には、
しっかり乗っかろう、そう決めた僕は、
優勝旗を両手でぐわぁっと高く持ち上げた。「やったぞぉ!」
と、まるで自分が優勝したような喜びように、
子どもたちもおうちの人たちも大爆笑の幕引きとなったのだった。