1巻こばなし#04「奈落のふたり」
このnoteでは
色んなマンガの単行本1巻だけに焦点を当てた感想のようでそうでもないような話をする。
すでに連載終了した作品でも、まだ1巻しかでていない作品でも1巻は誰にでもやってくる。
「このマンガは3巻から面白くなっていくんだよね」「最終巻まで一気に読むといいよ」
そんなことはご存じない。だって、ボクらはいつだって1巻から読み始めるんだから
※有料になっていますが、全文読めます。よかったら投げ銭くれると嬉しいです。
はじめのこばなし
『「死ね」と言って本当に死んだらどうするの!?』
普段、割と口が軽くズバズバ言うタイプ母が珍しく、言葉に関して怒った記憶がある。
それは私が小学生の頃だっただろうか?
たまたま読んだマンガかアニメかで、そこまで本気で「死んでほしくて」言ったわけではないのだが、こっぴどく叱られた記憶がある。
あれ以来だろうか、当たり前ではあるが人前でもSNS上でも世のそうな言葉を使わなくなったのは……。
今でもそのような言葉を目にすると少しばかり眉間にしわが寄ってしまう。
個人的には直接的な表現を使わずに死を表現できる人はすごいなとも思うようになったのも恐らくその頃からだろう。
私が中学生の頃、ニュースでいじめによる自殺の報道がなされた。それをきっかけなのか、元々あったものが表だったのかは定かではないが、立て続けに同様の報道がされた。
田舎の公立中学校に通っていた私たちは、生徒集会が開かれ、先生の口から「もし本当に悩んでいるのならば相談して欲しい」という旨の言葉を、文部科学省だかどこかのお偉い様が書いた「僕たち向け」のメッセージのプリントを配りながら言った。
その後、クラスに持ち帰ると担任からも同様の説明があった。当時の担任の数学教師のことは私は嫌いだったし、なんだったら中学時代の大概の教師のことをあまりリスペクトできていなかった。
高専に推薦でいけたのも、推薦文から面接まで事細かに指導してくれた父のおかげだとも思っているぐらいだ。
その教師も「何かあったら~」とお決まりのような言葉を言っていた。
正直な話、簡単にひいきをしてしまうお前が言うなよとは思ったが言ったところで当人は理解できないだろうから、その言葉は飲み込んだ。
そして、割とクラスの中でもインテリ的な立ち位置というか、お調子者というかの友人が、「どうせ死ぬんだったら、いじめた相手も殺して死んだらいいのに」的なことを言った。
私は悔しかった。
教師への苦言を飲み込まなければ、そのセリフは私が言ったはずだったのに……。
なんとも格好の悪い思い出だ。
だが、同時に考えたこともあった。
事件が起きてようやく動き出すのは、警察と変わらないんだなあ。なら、もし死なずに生き残ったとしたら、一体どうなるんだろう……。
命のやりとりというのは、弱者にも強者にも等しく与えられたある種のラストチャンスなのではないかと……。
今日の1巻
今回紹介するのは「奈落のふたり」
主人公の佐倉凛はクラスでいじめにあっていた。
ある日、クラスの優等生である小峰悠哉は、クラスメイトの言葉に流されて凛に対して「死ねよな」と言ってしまった。
本人としては周りがいじめていたし、何も考えずに出てきた言葉だったのだ。
クラスメイトのいじめをただただ受けるだけだった凛は、悠哉の言葉に目を見開くと窓に足をかけ飛び降りたのだった。
なんとか一命を取り留めた凛。彼女は飛び降りたのは悠哉が「死ね」と言ったからだと主張。
自分の進路や今後を考えると無視することもできないない悠哉は、どうしたものかと思っていると、凛から言われたのは、「彼氏になってくれ」というお願いだった。
悠哉には彼女がいたのだが、飛び降りの件や凛のお願いのことで不信感を抱く。
仕方が無く悠哉は凛と偽りの彼氏彼女の関係を続けることとなった。
1巻では、そんな凛をなんとか振り払おうと悠哉が奮闘するものの、「死のうかな?」の必殺セリフでなすすべがない。
クラスだけではなく、学校中からも噂され悠哉自身も居心地の悪さを感じ始めていた。
だが、2週間も経てばそんなこともなくなり(というよりも、凛に関わるとろくなことがないと思ったのだろう)、落ち着きを取り戻していた。
気がつけばしかたなしだが、凛と付き合う悠哉。
どうにかして凛の目的を聞き出すために、とことん付き合うことを決意するのであった。
それを面白くなく観ているのが、悠哉の一応元カノにあたる薫だ。初めはいやいやだった悠哉が、いつしか本当に付き合っているかのように凛に優しくしている姿を見て苛立ちが止まらなくなる。
二人を尾行する薫。
だが、それに気がついた凛はカラオケボックスに入ることにする。
凛のせいで別れることになったと言うと、薫は一体何がしたいのか問い詰める。しかし、凛は自分の家で彼と行ったことを勝ち誇ったように話す。逆上した薫は勢いで彼女につかみかかるが、以前のおどおどしたような凛と人が変わったかのように堂々としている彼女に途惑う。
そんな薫に凛はキスをすると言った。
「私 あなたと仲良くなりたい」
ということで
なんというか始まりがすごいのだ。
主人公が飛び降りて、きっかけを作った男に対して「付き合え」といって付き合うという、RTAのバグ利用スキップみたいな告白から始まる恋愛マンガなのだ。
一応恋愛マンガだと思う。
所々にある奇妙な狂気に読むページが止まらなかった。
このマンガは3巻で完結し、つい先日最終巻が発売されたばかりである。
テンポもよく最後まで飽きさせない作りになっていた。
恐らくこれ以上伸びていると良くないし、早く進んでいてもよくない。
丁度良く3巻で終わってよいマンガだった。
人は死を迎える時、それが自死であろうと無かろうと、終わりを感じる。
当然だ。そこで自身の命が終わるのだから。
だが、凛は違っていた。
無論これはマンガであるので仮に現実でも飛び降りた時に無事である保証はないが……。
凛は自死を選ぶことで自分を取り囲む様々なことを一気に変えていったのだ。
むしろ、命をなげうつことで始めたのだ。
それは青春時代の勢いによるものかもしれないし、計画的なものかもしれない。はたまた、別の何かがそうさせたのかもしれないが……。
ある意味行動力という部分ではずば抜けているだろう。
昨今異世界転生モノが増えている。
彼らも始まりは現実社会が嫌になっている。そんな彼らがとあるきっかけで死を迎えて、新たな世界で夢のような生活を過ごしている。
ファンはその姿にちょっとした憧れを抱いて作品を楽しんでいるのだろう。
異世界転生も、死による始まりの物語だと考える。
結局はそれがどれくらい差別化されていて、目新しいかどうかなのだと思う。
もし、奈落のふたりのような作品がでても、それは奈落のふたりのようなものの何かでしかなく、ストーリーは退屈してしまうのだろう。だとすれば、二度とこの作品のようなのは生まれてこないかもしれない。
死とは何かを変えるトリガーなのかもしれない。
何ものかの死によって人々は教訓を得て、課題を見つけ、解決に動く。
何ものかの死によって生きているものたちが変わる。
悲しいのは、死したものたちがその変化を受けることができないということだ。
変わることを望んで、悩み、結果命を代償にした。
できることならば、死をもって気づくような愚かなことにだけはなってほしくないなと常々考える。
今日紹介したマンガ
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