夏が始まった合図がした
キーンコーンカーンコーン
古臭いベルが退屈な授業の終わりを知らせる
先生:じゃあ今日はここまで〜
先生:日直〜ごうれーい。
んだよ、号令とかいいんだよ
早くしろよ
心の中でそう悪態をつく
生徒:きりーつ、礼〜
クラス:ありがとうございました〜
やる意味があるのかよくわらない号令に渋々付き合い、学校は皆一斉に昼休みに入る
僕は授業の後片付けもそこそこに、“ある場所”へ急ぎ足で向かった
ガタンッ!
その場所へ到着し、少し錆びたドアを開けると
緩い風に綺麗で長い黒髪を靡かせたキミがいて
僕を見つけたキミは微笑んで話しかけてくる
?:あ、来た〜笑
○:はぁはぁ...
?:随分と急いで来たみたいだね?笑笑
○:そ、そんなことない...けど?
そりゃ急いで来たさ。一階の教室からここまで。
だけど、認めてしまったらダサい気がして
少しキミの前ではカッコつけたくて虚勢を張る
?:でも〜、今日は来てくれて嬉しいなぁ
○:なんだよ、いつも来てないみたいじゃんか....
「五百城さん」
五:いつもじゃないもーん
○:ここ1ヶ月くらいは毎日来てるでしょ?
五:先週の金曜日は来なかったっ!
○:あ、あれは委員会で呼ばれてたからで...
五:ふんっ!
そう言って彼女がそっぽを向いた
困ったな...
○:ふんって...ちょっと五百城さん...
五:なーんてね、知ってるよ笑
そう言って笑う彼女
五:でも、あの日〇〇くんが来なくてちょっと寂しかったなぁ
○:ごめん...
そう、僕と今目の前にいる五百城さんは、ちょっと前からほぼ毎日学校の屋上で昼休みを過ごしていた
先の”ある場所“というのはここの事だ
五:じゃあさ、お願い一個聞いて?
○:お願い?いいけど...
五:やったー!じゃあねー....
少し空を仰いで考える素振りを見せる五百城さん
五:よし!決めた!
○:なにお願いするの?
五:あのね.....
○:うん
少しだけ頬を赤らめた五百城さんが少し節目がちに僕に言った
五:今度の夏祭り...一緒に行ってくれないかな...?
その仕草にドキドキしてしまう
僕はそれを見てうまく言葉が出てこなくなってしまった
五:ダメ....かな...?
ダメなわけないだろう。
むしろこっちが土下座してでもお願いしたいくらいだ。
○:だ、ダメじゃない!
○:行こう!一緒に...夏祭り!
五:ホント?!やったー!
喜ぶ彼女に陽が差し、照らされたキミの笑顔がとても眩しい
五:あ、あと!
○:?
五:LINE!交換...しよっ?
○:LINE?
五:まだ〇〇くんと交換してなかったよね?
○:あ、そういえば...
五:私出すから!ハイ!
そう言ってスマホを操作してQRコードを映し出したスクリーンを僕に差し出す
○:あ、うん
そのコードを読み込むと僕のスマホは
「五百城茉央」
という名前と丸型のアイコンを映し出した
ピコンッ
早速彼女から可愛らしいスタンプがきた
僕はあまりスタンプとか持ってないから
よく見かけるあのクマのキャラクターのスタンプを送り返した
五:なにこれ笑ブラウンじゃん
○:あんまりそういうの持ってないからさ
五:んふふっ、でも、これで毎日お話しできるね?
○:へ...?
キーンコーンカーンコーン
五:あ!もうこんな時間!
五:私教室戻るから
五:じゃあ、またね!〇〇くん!
そう言って目を細めて笑ってキミは屋上を後にする
○:....。
僕はしばらくスマホの画面に映る、キミとのトークを見つめる
温くて緩い風と蝉の鳴き声が
夏の始まりを合図していた
○:俺も教室、戻るか
高気圧で晴れ渡っている空と立ち上る入道雲を背に
僕は屋上を後にした