"心臓"点描
驚愕のスペクタクル
Ado SPECIAL LIVE 2024「心臓」に2日間参戦した。
どうだったかって?
もちろん最高だ。
語彙力がふっとぶ。
初の海外ツアーを完走し、そのままの勢いで最良のパフォーマンスを見せてくれた。
7月からの全国アリーナツアーまで発表された。
感想はマイペースでまとめるつもりだったけれど、このままではすぐに[すでに]周回遅れになってしまう。
初日となる4月27日公演の詳しいライブ評はすぐに「音楽ナタリー」(音楽ナタリー編集部 5月1日)に出た。特別ゲストやMCの内容も詳しく紹介されている。2日目の28日公演翌日から、音響に関する文章が出だしたのを何本か目にした。これについては一個人として、一参加者として看過できない部分もあるので別のページに書く。
web上の感想大会はもちろん、音楽情報サイトにも読み応えのある評(下記二つ目のライブレビュー)が出ている。
【Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish” 机上レポ・アメリカ合衆国編 を更新しました。ツアーの英語版セットリストあり。アーティストによる公式な英語版セットリストは出ていない模様】
今月末に発売される音楽誌『ロッキング・オン・ジャパン』7月号ではAdoが二度目の表紙になると予告が出ているので、海外ツアーやスペシャル・ライブについての逸話や本質的なことも追々明らかになってくるだろう。
個人的な感想の概要を、下記のようにまとめた。
願いをこめたハート
すり鉢状の国立競技場内から見上げる楕円形の空は、雨上がりの初日は都市の曇り空、汗ばむ暑気となった2日目は快晴となり、たそがれどきに薄絹の雲がながれていた。
メインスタンドを背に、100メートルはあろうかという横長のステージには、メインスタンドのモザイク模様の観客席が透過して見える巨大なシースルーのLEDスクリーンが展開していた。
ボカロ曲とAdoのリミックス楽曲を交互に弾けさせるDJタイムが過ぎると、SEにのせて針金の心電図をいばらのようにまとった今回のライブのロゴが現れる。
「Adoボックス」がステージ中央に浮上して来るのと同時に心拍数が増加する。瞬間的に沸騰する会場の大歓声。
デビュー曲のサビの耳をつんざく「はあ?」に戦慄した。
7万人のLEDリストバンド「FreFlow®️(フリフラ)」が赤や青に明滅し、スタンド席2層前面の帯状の「リボンボード」の光が会場を端から端まで絶え間なく走り回り、従来あった特殊効果の垂直に立つ炎(パイロ)に加え、五色に見えるパイロが巨大な手形のようにいくつも噴出するオープニングからして圧倒的な展開であった。
続いて映像の紫の炎に包まれ、一気呵成にダークサイドへ飛びこむ。そこからあがいて、渇いて、問いかけて、学び、受け入れ、開眼する。
ストリングス・ヴァージョンの楽曲の後奏が続く中、大会場の天井がメスでひらかれたように、ドローンにより大きなハートが描かれ、花火を受け取って血が流れ、脈を打つ。観客おのおののハートも、合わせて鼓動する。点は線となり、波や渦となって銀河へと変じ、やがて大輪の青い薔薇を咲かせる。
パワーはマックスに漲って、本邦ではライブ初となる曲が立て続けに披露される。空にそそり立ったり、長大に交差する白いレーザーが大会場をさらに大きく見せる。常識の殻も自らの殻も蹴破ったAdoがボックスを飛び出すと、南へ北へと駆けまわる怒涛のエンディングへとながれこむ。
今後、何度も、思い起こそう。
クローゼットの中で孤独に録音をしていた歌い手が、スポーツのイベントを主とする大会場の大舞台を、何十メートルも軽やかなステップで歌いながら駆け巡り、何万人もの聴衆に合唱させている、爽快な光景を。
陰キャの逆襲......。
本編の終わり前にMCが入った。
海外ツアーの経験を経て、世界の多様さを知り、自国文化への愛着も一層感じたこと。今宵披露した、歌にこめられたあらゆる感情こそが心臓であり、また、ボカロ楽曲と歌い手への思い入れが自分にとっての核心であるということ。自分が懸け橋やきっかけとなって、国内外を問わずたくさんの人に幸せをもたらせればと祈っている......。
アンコールは第二部といってもよさそうな密度で、スペシャルゲストを迎えての絶唱と、意想外のファンサービス、未来的なヴィジョンをリアル化した夢の共演という具合にサプライズが続く。従来はなかった映像を交えてのバンド紹介も盛り上がっていたし、本物の花火もどかどかと打ちあがり、50分ほどもあっただろうか、やはり圧倒的な内容とボリューム感だった。
開演直前のインストゥルメンタルから、オープニング・ムーヴィー、ドローンによるライン、リストバンドの点滅などで繰り返された心音のモチーフと心電図の波形は、途中鞭のような茨のビジュアルとも同期して、アンコールを締める大切な1曲の第2コーラスでドクン、ドクン、と脈打つバスドラムによって立体化し、具現化した。オーディエンスの腕の光と声援の波動も得たスタジアムクラスの公演は、肉体を持ったLIVEとなった。
派手な演出で意匠を凝らしているが、本編ではステージ上に立つのはライブハウスと同じ5人のみだ。歌詞が「心臓」の語をふくむ曲は公演のセトリに何曲かあった。
アンコールでのMCではめずらしく感傷的になる場面も見られた。十代での懐疑と不安、ボカロ楽曲との出会い、歌い手のコンサートでの感動と、居場所をみつけた後の夢の追求。遠くに輝く場所を目指して来て今日この場所に立てたことの想いと、これまでの葛藤の来歴がありありと語られた。
「私の歌を聴きに来てくださり、本当にありがとうございます」
終演翌日早朝の報道番組でもライブの模様とMCの一部が映像で紹介されていたが、シルエットを意識した手振りと、深々とお辞儀をするAdoの姿が印象深い。
感謝と、自信と、よろこびも観衆と共有できる、気持ちをしっかりと伝えた締めくくりであった。
2日目の後半のMCで思い出すのは、Ado自身と「Adoのキャラクター」がこれほど大きくなったのは、聴いてくれる観客あってこそなのだと話していたところ。この二日間で私は自分のことを少し好きになれたと言える......とつぶやくような言葉が特に印象に残った。
Ado本人がキャラクターと客観視して公言したのは、かなり新鮮であった。
実際に、Adoのサクセス・ストーリーはとてつもなくスケールアップした。目指す世界ツアーはまだまだこれからだと言う。
終演後、スクリーンには今回のライブの「キービジュアル」が映し出される。『カムパネルラ』のビジュアルでは分身と互い違いになっていた瞳の色だったのが、今、Adoの両眼には青い光が宿っている。
稀代の歌い手が胸を開いておのれの感情をみなもとから余すところなく披露したAdo SPECIAL LIVE 2024「心臓」。
聴く側もおのおのが胸に手を当てて渦を巻く感情に共振したり、奮起したり、なつかしがったり、未知にふれることができただろう。
Adoの物語という視点で見ても、現時点での決定版と言える公演だったと思う。参加できて、体験できてよかったと思えるスペシャル・ライブだった。ほんとうに有難う。