けやき広場

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HEARTS 自画像を描く夏休みの宿題が出たので田舎の祖母を訪ねたことがあると、あるとき"彼女"から聞いた。祖父は美術教師だったがすでに世を去っていた。彼女が覚えていた通り、田舎の家には若かりし祖母の凛とした素描のポートレートが、一つだけ飾られていた。描き方を祖母に訊ねても教えてくれない。ドリアン・グレイは読んだのかい、などと話を逸らす。しつこく訊いてみると、つくり話だと断ったうえで祖母はこんなことを話した。 自画像を描くという困った宿題が出たので、人物はさほど好かないが作

    • Ado JAPAN TOUR「モナ・リザの横顔」 "ライブ"レポート

      ニューアルバム『残夢』(読み : ざんむ)リリース直後の全国ツアー「Ado JAPAN TOUR モナ・リザの横顔」のライブレポートですが、レポの通念を逸脱する部分を含みます。 どこからでも読めるように編集しました。目次の気になった項目から、どうぞ。 (年末に愛知の振替公演を残しているため、振替公演が初めての参加で真っ白な状態で観たいという方には、参加後の閲覧を推奨します) 娥・儀・虞・戯・悟 〜オープニングアクト 水の滴る音、軋むドア、反響する足音に悲鳴……. ステー

      • 【聴いてみた】

        好きなものを好きだと言うだけのblogです。 ある楽曲を気に入ったとき、近かったり遠かったりする別の楽曲や音色を重ね合わせて楽しんでいることに気づく瞬間があります。 そういう主観に基づくプレイリストを仮に組んでみました。個人的な連想であり、続けて聴いてみたというだけで、特別に他に何かを言いたいわけではありません。以前、Vaundyのレプリカ論に触発されてリストをつくりましたが、その続きとして読んで(聴いて)いただいてももちろん構いません。もう少し広げましたが選曲についての

        • "心臓"点描

          驚愕のスペクタクル Ado SPECIAL LIVE 2024「心臓」に2日間参戦した。 どうだったかって? もちろん最高だ。 語彙力がふっとぶ。 初の海外ツアーを完走し、そのままの勢いで最良のパフォーマンスを見せてくれた。 7月からの全国アリーナツアーまで発表された。 感想はマイペースでまとめるつもりだったけれど、このままではすぐに[すでに]周回遅れになってしまう。 初日となる4月27日公演の詳しいライブ評はすぐに「音楽ナタリー」(音楽ナタリー編集部 5月1日)に出た

          Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish” 机上レポ・アメリカ合衆国編

          Ado初の海外ツアー「Wish」は、千秋楽の会場となったアメリカのテキサス州オースティンにて現地時間の4月1日夜、大盛況のうちに幕を閉じた。 日本では4月5日早朝、「めざましテレビ」などで千秋楽公演のごく一部と、初の海外ツアーを完走した本人の感想が紹介された。各国で盛大な歓声を受けて、また新たなパフォーマンスを見せられたという。  Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish”  America and Europe powered by Crunchyr

          Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish” 机上レポ・アメリカ合衆国編

          Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish” 机上レポ・ヨーロッパ編

          千秋楽の会場があるアメリカのテキサス州オースティンにて現地時間の4月1日夜、Adoが初の海外ツアー「Wish」を大盛況のうちに完走した。 前回、2月のアジア地域での6公演について、各地のメディアの報道をまとめてみた。どの公演も好評で、曲はあまり知らなかったが熱中したという率直な感想から、一ファンとしても詳細にレポートする記者、おそらく最近の資料を見ずに印象だけで書いているタブロイド紙的なものまで、さまざまであった。 はじめてのライブで、セットリストにある"あの曲"や"あん

          Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish” 机上レポ・ヨーロッパ編

          Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish” 机上レポ・アジア編

          Adoのファースト・ワールドツアー「Wish」が早くも始まっている。 2月のアジア地域での6公演は、たいそう盛り上がっていた模様だ。 直前の音楽ニュースでも「Ado、初の世界ツアー『Wish』が全公演完売 全14公演で7万人以上動員」(2024.2.2 SPICE、他)と報じられる、ファーストにしてはかなり大掛かりなツアーとなっている。シカゴでは当初予定の2倍の人数を収容する会場にアップグレードされたほどだ。  Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish

          Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish” 机上レポ・アジア編

          レプリカの時代にコールドプレイを目撃した(2)

          (承前) 4 ブートレグとレプリカの時代公演日(2日目)に発売された雑誌の最新の邦訳インタビュー(世界ツアーが開始された2022年のもの)で、クリスは意外なことを語っている。 なんと生真面目で正直な方だろう。サブスクどころかネットで無料の音楽を聴くことすらできないひとが、世界中にいる。悲観していても仕方がないし、ひとりひとりが無理をせず今日できることをしていくだけだ。バンドの活動はシンプルで力強い。 新アルバムを締めくくる「コロラチューラ」は演奏されなかった。重厚なオー

          レプリカの時代にコールドプレイを目撃した(2)

          レプリカの時代にコールドプレイを目撃した(1)

          1 さいごのディスクさいごに買ったCDのうちの一枚は、コールドプレイの6枚目のアルバム『ゴースト・ストーリーズ』だった。以後音楽を聴いていないのではなく、生活環境が遅ればせながらデジタルへ移行した。 同アルバムは、ボーカルのクリス・マーティンがグウィネス・パルトロウとパートナー解消をし、家族とも離ればなれになったデプレッションの期間がまともに反映した作品だと本人のインタビュー記事で語られている。じっさい、モノトーンで重苦しい調子が、さいごから2曲目までは霧中の夜道のように

          レプリカの時代にコールドプレイを目撃した(1)

          「マーズ」観戦記(2) 【更新】

          【更新 2024/10/24 読み返すと一行抜けていたので、「13 千秋楽」の内容を整理し、一行のみ追記しました(「1年前は…)】 【昨年「マーズ」無料配信の視聴者コメント欄をチラ見しましたが、固有名詞等に共通する語彙があったとしても断片的な書込みやポストと当ブログに一切関わりはありません】 (承前) 8 道化師、ファイヤーワークス、サンフラワー 火星の夜も更け、「夜のピエロ」がやって来る。 歌い出しから、前曲のがなりがウソだったかのようにクリアーな高音を響かせる。バン

          「マーズ」観戦記(2) 【更新】

          Ado全国ツアー2023「マーズ」 観戦記(1)

          1 最も暑い夏 西暦2023年の夏は、「地球沸騰化」の語も聞かれる記録的猛暑となった。 梅雨真っ只中の6月29日、埼玉から始まったAdoのセカンド・ツアーは、北海道から福岡まで地方のホール会場を順次めぐり、8月29日の日本武道館2days公演からキャパシティが1万人を超えるホール・アリーナ公演へと突入した。9月1日、気象庁は「過去126年で最も暑い夏」と発表。その後も連日熱帯夜が続く。 以下は、都合上大阪城ホール公演2日目(9/10)に参加しての感想文が主軸となる。AR

          Ado全国ツアー2023「マーズ」 観戦記(1)

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          LOW 蠟燭がゆらめいて描く行燈の影絵は、次のような話になっております。いつの世か知れない。夜な夜な有象無象の影が港の倉庫に蝟集する。煉瓦塀に近づくと、気もそぞろになる不可思議な音が漏れ聞こえてくる。興味本位で聞きに出かけたが帰らぬ者が多数。ひとびとには百鬼夜行とも、ゾンビの行列とも言われて恐れられた。噂をまとめると、こんな具合ーなんでも生きているように動かせる、稀代の影絵師がいる。どんな音声でも音響でも奏でられる、不遇の音楽家がいる。伝説のサーカス団長がいる。三者は酒場

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          米津玄師 2023 TOUR / 空想 @SSA に触れて 感想・空想

          1  前置き 米津玄師の2023年最新ツアー「空想」、後半の要となるさいたまスーパーアリーナ(SSA)での公演に馳せ参じた。およそ2年半ぶりとなる前回のツアー「変身」最終日の、ツアー終了後に公開された「KICK BACK」を見て「うおっ」となって以来、いよいよ実地に聴く機会を得た。「LOSER」あたりからの一リスナーで、ライブで聴くのは初、全編を通してボーカルを引き立たせる音のバランスが心地よく、こんなに歌が上手かったんだ、というのが率直な感想です。 主要メディアには詳し

          米津玄師 2023 TOUR / 空想 @SSA に触れて 感想・空想

          Ado LIVE TOUR 2022-2023「蜃気楼」 最"遅"レポート

          1  Adoってすごいバンドがいるんだ ーAdoってすごいバンドがいるんだ。ライブハウスが角砂糖みたいにちっぽけになって、しかも聴いている連中はみんな宇宙に放り出される。 この情報過多の時代にはおよそあり得そうもない勘違いだ。だけど一昔前であればそんな勘違いが口コミで広がったかもしれない、と空想したくなるほど、Ado初の全国ライブツアー「蜃気楼」の会場では一体感のある音楽が届けられていた。スタンディングのフロアはツアー時点でのガイドラインとルール遵守で押し合ったり混乱する

          Ado LIVE TOUR 2022-2023「蜃気楼」 最"遅"レポート

          蜃気楼へ投射された未来からの情景

          【2023.10.24 改題 内容変更なし】 心音 心音、 シンオン…… しんとした防音室。 気弱になったときは胸に手を当てて耳を澄ます。もう何年も観客と距離を置いて録音のためのスペースにこもっている未来のアーティストは、久しぶりに胸に手を当てて耳を澄ます。すると、遠いアリーナで早鐘を打っていたのと同じ小さな心臓が、一所懸命に働いているのが感じとれる。あの日あの場所で、たくさんの鼓動を吸収したかのように滝となって奔流しだした時間が力強くよみがえってくるのだ。見えないが確かに

          蜃気楼へ投射された未来からの情景