【短編小説】極寒のゴールデンウィーク
21世紀半ば、地球は温暖化が進行し、異常気象が頻発していた。しかし、誰もが予想だにしなかった事態が突然起こった。地球の寒冷化が始まったのである。
北極や南極の氷が拡大し、海流が変化。世界中で気温が急激に低下し、大雪や冷害が相次いだ。世界中の誰も想定しなかった寒冷化は深刻で、社会インフラは麻痺し、食料生産も危機に瀕していた。
5月というのに氷点下の東京。晴れているが、外気はあまりに冷たい。特にこのゴールデンウィーク中は最低気温がマイナス10度以下と極寒だった。
気象学者の佐藤健太と山田紗織は、祝日にもかかわらず、日本気候危機研究所に出勤していた。祝日は「みどり日」だ。まだ四季があった頃に作られた祝日だ。健太と沙織は、特に出勤する必要はなかったのだが、家にいると暖房代がかかるのと、祝日も一緒にいたいという個人的な感情で職場を使っていた。
「結果的に日本は、他の国よりも寒冷化の影響が少ないよね。日本人には良かったけど、理由ってなんだろうね」
紗織は、問いかける。
「うーん。まず、日本には昔、四季があったから、暑さだけじゃなくて寒さにも適応していたことかな。あと、結構重要なんだけど、ガソリン車や火力発電が現役で、EV車や水力、風力とかの発電の割合が少なかったことだろうね」
健太は頷きながら答えた。
「温暖化対策に後ろ向きだと散々批判されていたけど、今になってみると正解だということになるわね。今更になって、日本を称賛する意見が出てきたけど、何をいまさらって思うわ」
「よく言えば、日本は災害が多い国だから、バランスのとれた考えた方をしてきたということなのかな。まあ、悪く言えば、何の思想もないということにもなるかな」
「まあね。寒冷化の原因は未だにわからないままだから、単に運がよかったということかも。温暖化が進んでいたら、どうなっていたかわからないわ」
「俺たち気象学者は、汚名挽回しないとな。温暖化が進むって言っていた当事者だから、まずは原因をつきとめないと」
「そうね。私たち肩身が狭いわよね・・・」
「そうだよ。どんだけ叩かれたか・・・」
健太が自重気味に言った。
「ああ、もう!原因なんてどうでもいいわ!」
突然、紗織は叫んだ。
「ど、どうしたんだよ」
「だって、私たちが研究しても、今回みたいに突然状況が変わったりするんでしょ?科学って何なの?」
「まあ、そうだけど、これで俺たち飯食ってるんだし」
「もう、研究なんていいわ。なるようにしかならないんだもん」
「そうだな。今、ここで生きていること自体、運かもしれないしな。他の国じゃ、インフラが壊滅的で凍死する人の数が何十万、何百万というところもあるみたいだしな」
「ねえ、ドライブに行かない?寒冷地仕様のディーゼルエンジン車、持ってるの。車内の暖房も完璧よ。日本には給油所もまだ沢山のこってるし。氷点下があたり前で、最高気温が−10度の世界よ、EVだと下手すると凍死しちゃうわ」
「そうだな。あまりに寒かったり、豪雪だったりして、ドライブなんて世界的にやらなくなったからな。ところで、沙織のガソリン車はどこにあるんだっけ?」
「実家のガレージ」
「じゃあ、そこまで電車で行くしかないな」
「あ・・・」
「どうした?」
「やばい。この数日めちゃ寒かったよね」
「そうだな。でも、大丈夫だろ?EVじゃないから」
「だめなの。軽油って凍結するのよ」
(終わり)
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