【国語辞典サーフィン】何か叫びたくなったときに行く場所

【国語辞典サーフィン】何か叫びたくなったときに行く場所

国語辞典サーフィン

放送日:2023/04/15

#学び #勉強

突然ですが、あなたは今どんな靴を履いていますか。デートの日だからハイヒール? 山登りに行くので登山靴? 休日はやっぱりスニーカー? ライフスタイルや用途によって、選ぶ靴は変わってきますよね。では国語辞典はどうでしょう。同じ辞書をずっと使っていませんか? 「国語辞典なんて、どれも同じ」と思ってはいないでしょうか。
実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわりや編集方針があって、一つ一つ違うんです。また言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。さあ、国語辞典を開いて、広くて深~い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!


【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー

辞典を開いて、いざサーフィン

タツオ:ごきげんよう、サンキュータツオです。柘植:アナウンサーの柘植恵水です。タツオ:先週からレギュラースタートしました「国語辞典サーフィン」。国語辞典の楽しみ方、選び方、つきあい方など、さまざまな角度から国語辞典の魅力を紹介しております。ぜひラジオの前の皆さんも、一緒に国語辞典を開いて言葉の波に乗り、サーフィンして楽しんでいきましょう!柘植:私も初心者サーファーとして、タツオ先生についていきます!

今週の「もしもあなたが国語辞典なら」

タツオ:町の人たちに、こんな質問を投げかけてみました。「もしもあなたが国語辞典なら、この言葉、何と説明しますか」。もう、この番組のキモでございますから、皆さんがどの言葉について話しているのか、想像しながらお聴きください。

「平らなところを歩いていて、ちょっと盛り上がってきて、結構坂を登った感じのところ」

「山よりは低くて、子どもたちと走り回って遊べそうなところ」

「ピクニックに行って、お弁当を食べる場所ですかね?」

「何か叫びたくなったときに行く場所みたいな……そんな感じのところ」

「小さい山みたいな感じ」

タツオ:ああ、なるほど~。おもしろい!柘植:叫びたくなったり、でもピクニックはするんでしょう?タツオ:これ、何だと思います? どの言葉を説明していたか、わかります? 正解は……「丘」です。

実は「丘」という言葉は、似た言葉がいっぱいある言葉なんです。「山」と「丘」は何が違うのかとか、「岳」「峠」なども盛り上がっているところなんだけど、何メートル以上が「山」とか何メートル以下が「丘」とか、厳密に高さは決まっていないわけです。なので、こういった「丘」をどう説明するのか。

これ、結構難しいですよ。辞典をつくっている人は、こういうコトをずっと考えてんのよ。柘植さんだったらどう説明します?柘植:ちょっと駆け上がりたくなる小高い場所、とか。でも皆さんの説明だと、いい印象なところですよね。

数珠つなぎに調べていくと

タツオ:では逆に、「山」はどう説明します?柘植:何千メートル級っていろいろありますし、難しいですね。タツオ:まあ、大体の国語辞典は「丘」について、小高くなった土地とか、山が低いものというふうに説明するんですね。ただ注目していただきたいのは、例えば『岩波国語辞典』は山の低いものとか説明していますが、『新明解国語辞典』の第八版は、「見る人に威圧感を与えることもなく、散歩がてらのぼることが出来る程度の高さの、ゆるやかに隆起した土地」柘植:なるほど~。丘には威圧感がないんですね。タツオ:「威圧感がないって、どういうこと? そんなの人によるじゃん」って、思うじゃないですか。でもこれは、「山」と何が違うのかということを考えたときに出てきた説明のしかたで、じゃあ、この『新明解国語辞典』が「山」をなんて説明しているのか、ちょっと説明したいと思います。

「陸地の中で、表面が著しく隆起し、他より高くなった部分。古くは、神が住む神聖な地域とされ、信仰の対象とされたり仏道修行の場とされたりした」と書いてあるんです。つまりですね、日本では、神がいるのが「山」で、いないのが「丘」だと定義したんです。神がいないから、威圧感がないんです。で、散歩がてら、行けるんです。でも「山」は、神がいるから軽い気持ちでは行けないし、こもって修行する場所なんです。柘植:高さのことだけじゃなくて、そういう何か気持ち的な向かい方ですかね。タツオ:あとは『明鏡国語辞典』第三版ですね。これも、「丘」というのは「山ほどは高くなく、なだらかに盛り上がっている土地」と書いてあって。でも「山」を説明しないと、どうしてもこの(丘という)言葉を説明したことにならないじゃないですか。

そこで『明鏡国語辞典』の「山」という項目を引くと、「古くは神の住む清浄の地として信仰の対象とされた。特に比叡山、またはそこにある延暦寺を指すこともある」。つまり、「花といえば桜」というように、「山といったら比叡山、延暦寺」っていう、ちょっとこの歴史も感じさせますよね。

さらに『明鏡国語辞典』の第三版では、「峠」「山」「山場」は物事の頂点をいう、と書いてあって、確かに「峠を越えた」「山場を越えた」「山を越えた」っていいますよね。「峠」は、多く絶頂期や危険な時期などを越える通過点、山や山場は、最も重要な場面を迎えるときに用いることが多い。つまり「病状は、ここ2~3日が山だ」「試合の山場を迎える」とか。だから頂点ではなく重要な局面のときに「山」、頂点は「峠」ということなんです。

こうやって境目がない言葉も存在しているからには、その言葉が使われるニュアンスがある。それは何なのかというのを辞典ごとに説明してくれているのが、「丘」という項目の難しいところなんですよ。柘植:「丘」を調べることによって「山」や「峠」を調べ、「山場って何だろう」とか、いろいろと広がっていくんですね。タツオ:これが、いい「サーフィン」です! 山なのに「サーフィン」です(笑)。柘植:これが、「国語辞典サーフィン」ですね。タツオ:数珠つなぎに似た言葉を調べていくと、ああ、この辞典はこういうふうに説明しようとしているんだなって、見えてくるんです。行間を読むのが国語辞典なんですよ。皆さんもいろんな国語辞典を開いて、「丘」「山」「峠」「山場」……いろいろ語釈の違いを見比べてみてください。

辞書にまつわる思い出、質問

神奈川県のラジオネーム「妙(たえ)さん」
「小学校のとき担任独自の取り組みで、クラスに『辞書王』なる肩書があったことを思い出しました。先生が単語を出題し、その場で最も早く辞書引きができた人が『辞書王』となります。『辞書王』は教壇の前に立ち、辞書の記載を読み上げる権利を得られるというものでした。ちなみに全員が同じ国語辞典を使用していました」

タツオ:楽しいですね。小学生のときはゲームっぽく使ってもらうのが一番いいかもしれないですね。中学校ぐらいになると、学校指定の辞典じゃなくて、ひとクラスでいろんな辞典を用意してみんなで読み比べをやっている先生もいるみたいですよ。小学校、中学校で使う辞書には教科書に載っている言葉は基本全部入っていると思うので、引く早さだけじゃなく、説明のしかたの妙も学べるといいかなと思いますね。

群馬県のラジオネーム「お城大好き」さん
「私は学生時代に買った国語辞典を1冊しか持っていません。もし、これから新しく買うとしたら、オススメの辞書はありますか? また何冊くらいそろえておくと辞書を楽しめますか? それとタツオさんは、出版社の編集者からいろいろな話を聞いているとのこと。編集者の辞書に対する思い、どんな気持ちで編集に携わっているのかも聞きたいです。あと、これはわかればでよいのですが、有名人が使っている辞書はどこの出版社のものかも聞いてみたいです。特に小説家さん」

柘植:と、いろいろな疑問がわいてきた「お城大好き」さんです。タツオ:最低2冊は持ったほうがいいかなと思います。もう1冊何を買うかは、どの辞典を持っているかによると思います。編集方針がだいぶ違うやつを用意したほうがいいと考えます。

辞書編集者の皆さんは、本当にいろんなことを考えてくださっています。どういう人に手に取ってもらいたいのかというところからもう始まっているので、それが一番あらわれているのは、箱とかのデザインだと思います。見た目が一番じゃないですけど、自分が「これ、いいかも!」って思った箱やデザイン、手に持った感じって、実はあなた用につくられてるっていう可能性が高いので、そういう見た目から入ってもいいんじゃないかなと思います。

小説を書いている人たちは、『岩波国語辞典』と『新明解国語辞典』が多いかな。保守的な辞典と意味のニュアンスをくみ取っている辞典ということでも、この2冊がスタンダードですね。最近だと、『明鏡国語辞典』みたいに文法項目がすごく充実している辞典というのも重宝がられているかなと思います。柘植:タツオ先生、さすが! お城大好きさんの質問に答えていただきました。タツオ:でも、お城が好きなんだ。辞典も好きになって(笑)。柘植:まずは持ってみて、自分の好みのもの、見た目からでもいいって、気軽でいいですよね。

国語辞典にお悩み相談?

タツオ:国語辞典に関する悩みもそうなんですけど、僕がやりたいのは「国語辞典お悩み相談室」なんです。柘植:お悩み相談室?タツオ:いつも私たちにいろんなすばらしい気付きを与えてくれる、そして、いろんな思考のきっかけを与えてくれる国語辞典、これって、皆さんの悩みも解決できるんじゃないかな。柘植:辞典に解決してもらう?タツオ:人生を極めた人に相談するんじゃなくて、「国語辞典に聞いてみよう!」って。柘植:皆さんのお悩みを、国語辞典で答えていくというチャレンジなんですね。タツオ:「~国語辞典、愛のモヤモヤ相談室~」みたいなのをやりたいな(笑)。柘植:本気で悩んでいる方は、しかるべきところに相談していただいて……。タツオ:確かにそうなんですが、こんなとき、どうしたらいいんだろう? 友達との関係に悩んでいたら、「友達」という項目を引いてみるとかね。柘植:いいですね~。「友」とは何だ? 「恋人」とは何だ?タツオ:そうそう! ぜひお願いします。柘植:「国語辞典サーフィン」、お悩み相談室へのメールもお待ちしております。NHKラジオ第1の「国語辞典サーフィン」のホームページから送ってください。タツオ:「国語辞典サーフィン」、いかがでしたでしょうか。そろそろお別れです。柘植さん、「国語辞典サーフィン」をやるにあたって「うちわ」を用意してきましたが、あれ、何なんですか?柘植:レギュラー化になったじゃないですか。 “祝 国語辞典サーフィン レギュラー化”。ライブとかで持っていくような応援うちわを作りました。タツオ:アイドルのライブとかに持っていくやつですよね。すごくキラキラしてるんですけど。プロっぽい!柘植:本当ですか! じゃあ、きょうタツオさん、持っていってください!タツオ:いやいや、いらないし(笑)。柘植:いらないって言われた(笑)。タツオ:でもそのデザインは、『岩波国語辞典』第七版の新版のデザインにすごく似てるんです。女の子に手に取ってもらいたいということで、ちょっとキラキラさせた第七版の新版があったんですけども。柘植:「推し」とか、新しい言葉もどんどん増えていますね。タツオ:「ファン」と「推し」と「マニア」では何が違うのか。これって、「丘」と「山」以上に結構難しいし、あと「オタク」っていう言葉もありますからね。また国語辞典を開いて、言葉の波を一緒に楽しんでいきましょう!柘植:それではまた来週、この時間にお会いしましょう。お相手は柘植恵水と……タツオ:サンキュータツオでした。ごきげんよう!

国語辞典サーフィン

ラジオ第1 毎週土曜 午後0時45分

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【放送】
2023/04/15 「国語辞典サーフィン」サンキュータツオさん

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