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[018] 日本語を使いこなす豆知識。あるいは、辞書と誤用と確信犯。
☆18日め
みなさんは日本語、使いこなしてますか?
日本で生まれ、日本で育った方なら、最低限の読み書き能力はあるでしょうから、「noteで何か表現をしようか」と思ったら、まずはエッセイ的なものから入るのが、多くの方にはやりやすいはずです。
今日は文章の書き方ではありませんが、文章を書く上での豆知識的に、日本語の「誤用」と「言葉の変化」について、ちょっと考えてみることにします。
* * *
確信犯という言葉があります。
例えば、あなたの友だちウソコちゃんは、いつも平然と嘘をつく人だとしましょう。別の友だちと話をしているとき、ウソコちゃんの嘘の話になりました。
そこであなたはもう一人の友だちに、
「あの子が嘘つくのは、確信犯だからなぁ」
とぼやきます。
このように確信犯を「悪いと分かっていて何かをすること、あるいはする人」の意味で使うのは、今ではまったく普通のことですが、これは元々は誤用だったんです。
知ってましたか?
※以下引用は、文化庁のこちらのページより。
https://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2012_05/series_10/series_10.html
* * *
確信犯というのは元は法律用語で、「日本国語大辞典 第2版」では、次のように説明されています。
確信犯 [名] ①法律で,政治的,道義的,思想的,宗教的な確信に基づく義務感または使命感によって行われる犯行。政治犯,思想犯などと呼ばれるものがこれに当たる。
②俗に,トラブルなどをひきおこす結果になるとわかっていて,何事かを行うこと。また,その人。
1番めに法律用語としての説明があり、2番目に一般的な用法が説明されています。
この②の説明では、「単に悪いと知っていてする」のであって、本人がそれを「正しいと思っているかどうか」は問題になったいません。
(法律上は「悪いと知ってする」のは「故意犯」となります)
ですから、①の「正しいと確信してする」のとは意味的に異なっています。
意味が違うのに同じ言葉を使っているのですから、「誤用」と考えることもできるわけです。
これに対して「明鏡 第2版」では、
→①と同様,その背後には最終的に自らが正しいという確信がある。
2番目に対してこのような注釈がついています。
この場合は、①の法律用語に対して、②はその一般化ないし、比喩的用法ということになります。(犯罪ではないことなのに軽く「犯」という言葉を使っているわけです。社長でない人に「よっ、社長!」と呼びかけるのと似た使い方ですね)
そして「岩波国語辞典 第7版 新版」では、
→1990年ごろから,悪いとは知りつつ(気軽く)ついしてしまう行為の意に使うのは,全くの誤用。
という説明があります。
これは「悪いと知りつつ犯罪を行なう」のは法律上は「故意犯」と呼ぶべきな上に、「悪いと知りつつ、気軽にする」というレベルの軽い行為に「犯」というような強い言葉を使うのは間違っている、ということなのでしょう。
しかしながら、ぼくの感覚では、岩波のように「まったくの誤用」とするのは、ずいぶん頭のかたい学者さんだなぁ、という気がします。
一般の人は、「確信犯」と「故意犯」の違いなど、普通知りませんから、それを誤用と厳密に言ったからといって、普及してしまった言い方がなくなるわけはありません。
そして何よりも、言葉は生き物。
自分の知ってる意味と違う使い方をしているのを見ると、なんだかムズムズするような気持ちも湧いてきますが、生きて変化する言葉のダイナミズムを味わってこそ、文章を書くおもしろさも増していくというものです。
「この使い方が正しい」とか「この使い方は間違ってる」とか、あまりかたく考えすぎず、「この言葉をこんなふうに使うのか!」とびっくりしながらも、楽しんでしまうことをおすすめする次第です。
* * *
ちなみにこの話題は、ちくわ【どんぐり】さんのこちらの投稿を受けて書いています。
https://note.com/heso/n/n83fcf36cc155
ちくわさんとコメント欄でやり取りをしていて気づいたのですが、実はぼくも「確信犯」と「故意犯」の区別がつかないままに、
「単に比喩的な用法をわざわざ『誤用』というのはヘン」
と思ってました。
つまりウソコちゃんが「自分が嘘をつくのは正しい」確信してるかどうか、までは考えてなかったわけです。
とまあ、ぼくのようなそそっかしい人間は、分かってるつもりで分かってない場合もあるので、何か発言する前には、きちんと調べることが大切です。
みなさんの場合は、そんなことはないでしょうけれども、「あれ、この言葉、この使い方でよかったかな」と思ったら、めんどくさがらずにぱっと調べてみるのがいいですよね。
思わぬ発見があって、「へー、そうだったのかぁ」と思うことも多々あるものですから。
てなことで、それではみなさんナマステジーっ♬
#コラム #エッセイ #茫洋流浪 #文章力 #文章術 #書くこと #文章力養成100日コース
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☆この記事は、ヤヤナギさんがこちら
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