[全文無料: 小さなお話 003] 神さまの隠れんぼ
[約2,200文字、3 - 4分で読めます]
こんな話を聞いたことがあります。
昔々、この世界にはたった一人の神さまがいらっしゃるだけで、ほかには何もありませんでした。
何にもない世界に自分一人がいるだけでは退屈です。
そこで、神さまはお日さまを作り、お月さまを作りました。
昼と夜のリズムが生まれ、毎日の生活に張りが出るようになって、神さまはずいぶんと楽しい気持ちになりました。
しばらくすると神さまは、昼にまん丸のお日さま、夜もまん丸のお月さまでは、ちょっと面白くないな、とお考えになりました。
そして、いいアイディアを思いつきました。お月さまには29日の周期で満ち欠けを繰り返してもらうことにしたのです。
昼と夜のリズムに、月の周期も加わって、神さまはさらに愉快な気持ちになりました。
ところがしばらくすると、今度は夜の空が暗すぎるのがどうも気になります。
神さまは無限のアイディアの持ち主です。ぽんと手を叩くと、夜空を飾るたくさんの星々をお作りになったのです。
次に神さまは、素敵な天体ショーを見るために大地を作りました。
東から日が昇り、西の空に日が沈み、星空に月がかかる。月は満ち欠けを繰り返し、ときには月食や日食まで起こる。なんと精密な世界ができ上がったことでしょう。
素晴らしい作品のでき映えに、神さまはとてもご満足でした。
けれども神さまの探究心は、それだけでは収まりませんでした。
大地を削って海を作り、大地の上には山を作り、山から海へと流れる川を作り、神さまの創造心はとどまるところを知りません。
やがて草木を作り、虫や鳥を作り、獣を作って、ついには自分の姿に似せて人間までもお作りになったのです。
さすがの神さまも、ここまで世界を作り込むと、もうこれ以上自分一人で作るのも、なんだかつまらないな、とお考えになりました。
どうしてつまらないと思ったのかって?
だってそうですよね、全能の神さまは、自分が作った人間になんでも命令したとおりに動かすことができるんです。
あなたが一人でオママゴトをしているのと同じなんですから、初めのうちは楽しくても、しばらくしたらなんだか味気なくなって、つまらないなーって思っちゃうじゃないですか。
さすがの全能の神さまも、ここでウーンと考えこみました。
ウーンと考えている間に何度お日さまとお月さまが昇っては沈み、どれだけ月の満ち欠けが繰り返されたかは誰も知りません。
そうしてぼくたちの気が遠くなるほど長いあいだ考え込んでいた神さまは、やがて飛び切りの名案を思いついたのです。
その名案っていうのはね、自分が神さまであることを忘れて、人間の間に紛れ混んでしまうことなんです。
そうすると、どうなるのかって?
そうするとね、神さまは永遠の隠れんぼ遊びができるようになるんです。
あなたは時々、こんなことを思うことがありませんか?
初めての場所に行って初めて見た景色なのに、なんだか前にも来たことがある気がするな、とか。
あるいは、なんだか昔、今とは全然別の世界にいたことがあるような気が、ふとしたり、とか。
そういうことが起こるのはね、あなたが神さまだったときのことを思い出しかけたときのことなんですよ。
ぼくたちの誰もが神さまのお創りになった似姿で、ぼくたちの誰にも少しばかりの神さまがお宿りになっているんです。
そうやって、神さまが永遠の隠れんぼ遊びをしているのが、ぼくたちの生きているこの世界なんです。
だからあなたが、自分が神さまであることを思い出したときに、この隠れんぼ遊びは終わってしまうんですが、でも、心配しなくていいんですよ。
もしもあなたがそれを思い出しちゃったとしても、それをずっと憶えていることはできないんですから。
いつの日かあなたが、自分がこの世界を創った神さまだって思い出しても、じきにそのことは忘れちゃうんです。だって、そうじゃなきゃ永遠の隠れんぼになりませんからね。
だからこの話を読んだことも、忘れちゃってかまわないんです。
だいたい自分が神さまだなんて、そんなおかしな話があるもんかって?
そう思うのもいいでしょう。
なにしろこの話、ぼくは確かにどこかで読んだ話のはずなんですけれど、ネットで探しても見つからないんですよね。インドの神話か何かだろうと思うんだけど、どこにも見当たらないんです。
ぼくが創りだした話ではないはずなんですが、まあここでは夢にでも見た話ということにしておきましょう。
それでね、こんなのはただの法螺話だとあなたが思うのなら、それでもいいんです。もしもおもしろい寓話だなと思ってもらえたならば、それもよし。
でもぼくはこの話、意外と真実を突いてるなって思うんです。
だからあなたが、もしかして、ひょっとして、と思ったのならば、どうかその気持ちを大切にしてみてくれませんかね。
頭の片隅にでも、神さまの隠れんぼのことを、そっとしまっておいてほしいんです。
そしたらある日、昼下がりのうたた寝の中で、それとも夏に海に行って波間でぷかぷかと浮かんでるときに、ふっと思い出すかもしれませんよ。
ああ、そうだった、確かにきみの言うとおりだったよ、その通り、この世界を作ったのは、実はぼくだったんだってね。
[2018.11.17 西インド、ブンディにて]
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