3.9(20/89日目) テリーとアントニオ
エステポナ滞在最後日。
チェックアウトはしたが、夜まで荷物を預かってもらうようにお願いしてバスの時間まで街をウロウロすることにした。
ランチを食べに昨日とは別のチャイニーズレストランへ。スペインの中華料理店の料理ががかなり美味しいので、食べ比べしてみたくなってしまっていた。炒飯は日本の中華料理店のものとは風味が違い、あっさりしていて程よくパラパラなので気に入ってしまった。それにしてもエステポナには一体何軒の中華料理屋があるんだろうか...。
入ったレストランはランチタイムより少し早かったせいか客は自分の他に一人しかいなく、店員は珍しく中国人ではなくスペイン人が働いていて、暇だったのか炒飯を頬張る自分に話しかけてきた。彼の名前はアントニオ。
「今の時期は暇だけど、来月になると観光客たくさん来るから大忙しになるんだョ。」
エステポナはザ・観光地なのでバカンスのシーズンが始まると人で溢れるらしい。アントニオは中国が大好きでここで働いているそうで、昨年は万里の長城を1ヶ月かけて走ったらしく
「万里の長城を走った記録がギネスブックに載ったんだョ〜。」
いきなりギネス記録保持者に出会うことが出来るなんて...。
美味しく中華料理をいただき、会計の時に本当に万里の長城を走ったのかと改めて聞いてみたところ、
走って汗を拭うジェスチャーをしてみせ
「本当だョ。」
と斜め上を見ながら笑っていた。
食後、例のドラゴンの像が気になり砂浜に行ってみたところ、作品はなぜかドラゴン像からネバーエンディングストーリーのファルコンに変わっていた。相変わらず完成していないなぁなどと思いながら作成する姿を見ていたら、近くで同じくファルコン像を眺めていた老夫婦が英語で自分に話しかけてきた。
「Hi!一人旅かい?」
「はい。」
「それはいい。ワハハハ!」
謎に明るい老夫婦としばらく会話していると仲良くなり、オレンジジュースを奢ってくれるというので遠慮なく頂いた。
60歳くらいに見える夫婦のご主人の方はテリーさんという方で、シカゴ生まれでアメリカで教師をやったあとサウジアラビアで英語の教師を15年間ほどやり、その後別の仕事を経て今はエステポナで引退生活を楽しんでいるらしい。ご婦人はドイツ出身で、いつ頃かのタイミングで(聞き取れず)ご主人と出会ったとのこと。
辿々しい英語力で頑張って会話をしていると、日本人らしきアジア系の女性が通りかかった。
テリーさんはその女性にも声をかけ、自分にしたのと同じように自己紹介を話し出した。しばらく会話した後、テリーさんが4人で飲みに行こうと言い出したので自分はバレンシア行きのバスが来るまでならとOKした。
日本人の女性は怪しんだのか、誘いを断って離れていってしまった。まぁ出会って5分の人からいきなり誘われたら普通そうなるだろう。
行きつけの場所があるということで、自分とテリー夫婦の3人で歩いて移動。着いた建物は繁華街の外れでバルやレストランの看板は見当たらない...。その間もテリーさんはよく喋り自分に考える暇を与えないくらい話してきた。
薄暗い階段を登っていくと「ACE」と書いてある部屋にたどり着いた。
今頃になって少し不安になってきたが、元々取られるものもないので心配することもない。一緒に部屋に入ってみた。
30㎡ほどの広さの部屋は右側に洋書が壁一面に並べられ、左側にはバーカウンターとテーブルがあったが、店員は見当たらなく店内は静まり返っていた..。奥の方で数人が話す声が聞こえてきた。
ここは何なのかテリーさんに聞いてみたところ、正式名称は「American Club Estepona」というアメリカ人の会員制クラブとのこと。エステポナに遊びにきたアメリカ人やリタイアして住んでいる人が自由に使えるスペースらしい。
テリーさんが奥の方にいた人に声をかけ、テリーさんが紹介してくれた。
この部屋のスペイン人の管理人と、イギリス人の男性、バスク出身の女性が挨拶してくれた。
皆からビールを飲もうと誘われたが、この後バスに乗らなければならないので断り、コーラをお願いした。部屋に入る前に一瞬頭をよぎった犯罪の気配はまったくの的外れで、時間が経つにつれ全員陽気になっていった。
しかしどんどん盛り上がり、次第に会話のキャッチボールも成り立たないくらいになってきてよく分からない空間に。
テリーさんは何度も同じことを繰り返し喋りだし、後半はなぜか涙ぐんで同じ事を繰り返していて、他の人たちも大声で話していた。自分も頑張って会話を試みていたが、1時間半ほどで英会話脳がショートしかけたので
「もうすぐバスが来るから帰ります。」
と伝えると
「私もそろそろ~、帰ろかな~。」
テリーさんはドリフのコント並みに千鳥足でヨロヨロしながら歩き、タクシーに乗ると言ってバスターミナルとは別の方向に去っていった。いつものことなのか、ご婦人はとっくに帰っていた。
Eメールのアドレスを教えてもらったので日本に帰ったら手紙を出そう。
一旦ホテルに荷物を取りに戻り、バスターミナルへ。
少し早めにバスターミナルに着いたが、すぐにバレンシア行きのバスがやってきた。時刻表では22時10分に出発予定だったが、自分を乗せると時間を待つことなく21時45分に出発。
ギリギリにバスターミナルに着いていたらどうなったのか謎だが、それもスペイン時間というヤツかもしれない。
ただでさえ良かったエステポナの印象が、今日のアントニオとテリーさんの2人のおかげでこの街が忘れられないものとなった。感謝感謝である。
ヨーロッパのリゾート地で優雅に遊べるような身分になったらまた来よう。
バスは相変わらずものすごいスピードでバレンシアに向け出発した。
本日の出費
昼食 800Pts
宿代 5,000Pts
長距離バス 6,745Pts