短編小説 声を聴かせて
短編小説 声を聴かせて
和泉敏之 著
第1章 転校生
4月7日。高校二年生の春がやってきた。俺は一年前、家の一番近くにあるこの学校を選んだ。進学率は結構よく、大学進学を目指す学生がほとんどで占められている学校だ。俺は二年生になった。一年のときに進学コースを選び、そこでは三年間クラス替えはない。いつもと同じメンツで、いつもと同じような他愛もない話で教室中が満たされる。
始業式の日、担任が発表された。去年と同じ渡辺先生だ。理科の若い教師で、生徒からの信望は厚い方だ。俺はあまり彼とは話したことはないのだが。
始業式が終わって、クラスに戻ってきた。渡辺先生が話し始めた。「今日から二年生だ。進学コースは一年も二年も三年も関係なく、受験生だから心して日々を送れ」いつもと同じ説教臭い語りだ。
しかし、今日は様子がいつもと違った。渡辺先生が一通りの「説教」を熱弁した後、静かに告げた。「実はこのクラスに転校生が入ることになった」クラス中はざわめいた。去年と同じ顔触れのところに「新人」という新しい風が入ってくるのだ。皆、この宣告に歓喜の様子だった。「さ、入って」渡辺先生がいつになく丁寧な口調で言うと、1人の女子生徒がクラスに入ってきた。
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