モノクロ同盟 (16) 終
3−4
福永、登場。
福永 先生! ……大森さん。
大森 どうも……
福永 先生、いま、先生の本、読み終わったんですよ。
おもしろいじゃないですか。やっと、先生も小説の書きかたが分かったんですね。
岩谷 どうも……
福永 早く感想を伝えたくて!
つづきは、いつ書けるんですか?
岩谷 つづき?
福永 つづき!
岸田 それは……
三上 ぼくも気になっていました。
大森 つづくんですか?
福永 先生。
皆々 先生!
沈黙。
岩谷 おい。
3−5
くろかわ、登場。
くろかわ はい。
岩谷 おまえじゃない。
はいじま、登場。
はいじま はい。
岩谷 おまえでもない。
しろい、登場。
しろい はい。
岩谷 どうなんだ。
しろい はい?
岩谷 つづくのか? ……おまえが書いた小説は。
しろい はい!
沈黙。
大森 え?
福永 まさか……
岸田 それって……
岩谷 こいつが書いたんですよ……鴎外賞受賞の、あの傑作はね。
三上 ゴーストライター……
岩谷 あんたが勝手にかんちがいしただけじゃないか。
訂正して、読者にあやまれよ。
それで、あらためて、はなばなしく売り出せばいいじゃないか。
奇跡の新人とか、百年に一度の才能とか、出版業界激震……とか。
沈黙。
三上 ……とにかく、編集部で相談させていただきます……
三上、去る。
3−6
福永 見そこないましたよ……先生……敷金は返すけど。
(しろいへ)がんばってね。
しろい はい。
福永、去る。
3−7
大森 ははははは……
(かかえている本を見る)これ、どうしようかな……
逆に、プレミアがついたりして? ははははは……
(しろいへ)がんばってね。
しろい はい。
大森、去る。
3−8
岸田 うそですよね?
岩谷 ……
岸田 先生……
岩谷 本当だ。
少しのあいだだったが、たのしかったよ。
鴎外賞受賞作家……人気作家の気分を味わえて。
岸田 まるで……思い残すことはないっておっしゃってるような……
岩谷 ……
岸田 死んでいく人みたいですよ、先生……
岩谷 ……
岸田 いや……もう、死んだ人みたい……
岸田、去る。
3−9
岩谷、くろかわ、はいじま、しろい。
くろかわ 先生……
はいじま どうしたんですか?
しろい お役に立てますか?
岩谷、机をたたく。
びっくりする三人。
三人 先生……
岩谷 もう、帰れ。
くろかわ はい……
はいじま また、
しろい 明日……
岩谷 明日は、ここにいないよ。
三人 えっ。
岩谷 マンションにうつるつもりだ。
ここよりせまいが、家賃は安い。
オートロックにした……二度と、勝手に入ってこれないように。
くろかわ じゃあ……
はいじま ごみ捨て場……
しろい 入れない?
岩谷 住人以外、カギをあけられない。
三人 えー。
しろい 待って……(絵本をとってくる)……うん……うん……なんで?
まだ、正体がばれてないのに。
くろかわ これで……
はいじま 先生と、
しろい おわかれ?
三人 えー。
くろかわ 先生、ごめいわくでしたか?
岩谷 いや。
はいじま お仕事のおじゃまでしたか?
岩谷 いや。
しろい でも……
岩谷 おれは、うそは言わない。
三人、顔を見合わせる。
沈黙。
三人、去っていく。
しろい、残って、ふりかえる。
3−10
岩谷、しろい。
しろい あの。
岩谷 なんだ。
しろい もしも……もしも、なんですけど……先生がこれから、作品を書か
れて……
もしも、それが……そんなことは、本当はないんですけど……どうしようもない失敗作だと思われて……
捨ててしまえ、って気になられたら……
その原稿……ベランダに置いといていただけますか……?
岩谷 ……いいよ。
しろい やった!
しろい、去る。
3−11
岩谷、ひとり、立ちつくす。
やがて、机につく。
3−12
チャイムが鳴る。
岩谷 はい。
篠原、登場。
篠原 ……準備は終わったのか?
岩谷 なんの?
篠原 引っ越しだよ。手伝いに来たんだろうが。
岩谷 とりやめだ。
篠原 なに?
岩谷 国語の先生も、なしだ。
篠原 どういうことだ?
岩谷 書くんだよ。
篠原 書く?
岩谷 小説を書くんだよ。
篠原 おまえ……
岩谷、パソコンをひらく。
小説を書きはじめる。
篠原 ……
篠原、去る。
3―13
岩谷、ひとり。
岩谷 書くしかないか……
たったひとりの読者のために……
4−1
くろかわ、はいじま、しろい、浮かびあがる。
しろいを祝福する、くろかわとはいじま。
しろいの笑顔。
――幕
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