モノクロ同盟 (1)
0−1
闇のなか。
しろい、ひとり。
しろい むかし、あるところに、一人のわかものがおりました。わかものはまずしいひゃくしょうで、そまつないえに一人でくらしていました。あるあきの日、わかものは田んぼでのらしごとをしていました。すると、「バタバタ」という音がきこえました。「あれはなんの音だ?」そこには、一わのうつくしいつるがおりました。つるは、りょうしがしかけたわなにかかってくるしんでいたのです。「コー、コーコー。」「おお、かわいそうに。いたかったろう。」わなをはずしてやると、つるはまっ白なはねをのばして空にまいあがりました。「コー。」つるはうれしそうにひとこえなくと、山のかなたへとんでいきました。コーコーコー。にゃーにゃーにゃー。
1−1
書斎。下手に机、いす。本棚にかこまれている。
上手に入口、台所、寝室、玄関へ。下手は書庫へ。
伊藤、登場。美人だが、きつそうな雰囲気である。あたりを見まわす。なにやらけげんな様子。ぼうしかけに、自分のぼうしを見つける。
手をのばしたとき、くろかわ、ほうきを手に、登場。
1−2
くろかわ 先生、そうじが終わりました!
伊藤、びっくりして、ぼうしかけを倒してしまう。
くろかわ 先生?
伊藤 ……(ふりかえる)
くろかわ ……じゃない?
伊藤 ……誰?
くろかわ は?
伊藤 は?
く・伊 は?
伊藤 ……彼女?
くろかわ なにが?
伊藤 あなた。
くろかわ なにが?
伊藤 ……岩谷の、あたらしい、彼女……
くろかわ ……
伊藤 ……なによ。
くろかわ ……彼女、ってなんですか?
伊藤 ……恋人。付き合ってる? 同棲してる?
くろかわ ……
伊藤 てゆうか……結婚?
くろかわ あほー…… !
くろかわ、笑う。
伊藤 ちょっと。
くろかわ すみません。
ぼうしかけを立てなおす。
くろかわ なんか用ですか? こんな朝っぱらから……
伊藤 こっちが言いたいわよ。
くろかわ いいですよ、言って。
伊藤 ……なんなの? こんな朝っぱらから。まだ6時前よ。
くろかわ もう6時になるじゃないですか!
伊藤 ……岩谷は夜型だけど?
くろかわ 起こしましょうか?
伊藤 やめて。会うのがこわくて……こんな時間に来たのに……
くろかわ 会いたくないんですか?
伊藤 会いたいわよ!
くろかわ えー。
伊藤 ……家政婦をやとうくらい売れたわけ? 仕事場もきれいになっち
ゃって……
くろかわ ……
伊藤 わたしがどんなに、何回そうじしても、すぐに古本とか原稿でちらかしてたのに……
くろかわ そうですね。
伊藤 じゃあ、やっぱり?
くろかわ はあ。
伊藤 ……あやまること、ないわよ……勝手に入ってきて悪かったわね。わたし、ちょっと前まで、あいつと付き合ってたの。これ、合鍵(机の上に置く)あと、忘れもの、とりに来たかっただけだから。
くろかわ、その合鍵をじっと見ている。
伊藤 じゃあ、よろしく伝えといて。
伊藤、ぼうしをとって、去ろうとする。
そこへ、はいじま、登場。伊藤とはちあわせる。
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