アルタイルの詩(笑) (6)
1− 11
大輔、奈津美。
奈津美 大輔。ありがとう。
大輔 なんだよ、そんなこと……結局……
奈津美 うん。ふられちゃった。
大輔 やけ食いでもするか?
奈津美 ……焼肉とかさ。
大輔 おまえのおごりな。
奈津美 えー。
大輔 ありがとう、って言ったよな。ちゃんとかたちで示せ。
奈津美 カラオケとかね。
ふたり、笑う。
沈黙。
奈津美 本当に……なんて言ったらいいか……
大輔 おさななじみの一大事だ。助けないわけにはいかないだろ。
奈津美 おさななじみ (笑う)
大輔 なんだよ。
奈津美 おさななじみ、だって。なんだか、くすぐったくて。
大輔 出会いは、ふとした瞬間だった。帰り道の交差点で、「いっしょに帰ろう」
って、声をかけた。
奈津美 ランドセルで顔をかくしながら、本当は……うれしかった。
大輔 会うたびに、おまえの目を見る回数がふえた。
いつも涙ぐんだようにふるえてる、少し茶色いひとみがおれの目に焼きついたときには、もう、かけがえのない、大切な存在だと気づいてた。
秘密の近道、おばけのポスト、異次元につづくトンネル……
たのしかった日々の映像は、思い出しきることができないくらい、まぶしすぎて……
でも、誰にもわたしたくなくて……
冒険もした。けんかもした。いろんなことを語りあった。
風が、時間とともに、流れた……
奈津美 うん……うん……
大輔 ……おさななじみでいいじゃねえか。
奈津美 でも……やっぱり……
大輔 くされ縁?
奈津美 うん。それ。
ふたり、笑う。
1―12
夜がふけていく。
中庭に、明かりがともる。
渉、登場。
奈津美 あ、わたし、帰る。咲希には会えそうにないや。
奈津美、去る。
渉、大輔。
大輔 こうなることはおれも奈津美も、分かってた。あいつは、あきらめないぞ。
ふられると分かってて、また、気持ちを伝えに来る。
渉 でも……
大輔 ああ。おまえは、けっして、うんと言わない。
渉 ……
大輔 なぐろうとしたのは、悪かったよ。
渉 ……もしかして……
大輔 おれは奈津美が好きだ。
廃線のさびた線路の上、見上げた空は一面、流星群。あの景色はたしかに、おれたちふたりだけのものだった。つないだ手、はなれないように、流れ星に祈った。廃線の枕木の上、さびた線路の上、おれたちの歩いていく方角には、よっつの花びらの名前も知らない、まっ白な花が咲きみだれてた。かなしいくらい、あたたかかい、からめた指。月はなかった。いつのまにかぬいだサンダルを、片手にぶらぶらさせて、夜露にぬれた一直線の線路を踏んで、はだしのつまさきが胸をさすほどに、細く、たよりなかった。奈津美は目をとじていた。奈津美が夢見た、未来。それは、おまえと名を呼びあい、肩を寄せあい、抱きしめあう、しあわせな日々。強く、きつく、にぎりしめていたのに、心ははばたいて、おれのもとにはなかった。きっと、奈津美は、流れ星に、おまえとのことを祈ってた。
渉 ……そんなこと言われても……
大輔 こまるだろうな。
渉 ……
大輔 もういい。
大輔、去る。
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