モノクロ同盟 (11)

１−３２

　　岩谷、ひとり。
　　しばらく黙々とパソコンをたたく。
　　やがて、息をついて、いすにもたれる。
　　目を閉じて、寝る。

１−３３

　　しろい、登場。

しろい　　先生！ 天才！

　　寝ていることに気づき、しずかにする。
　　いったん去って、毛布を持ってくる。岩谷にかけてやる。
　　くろかわ、はいじま、帰ってくる。
　　「しー」と、しろい。

くろかわ　読んだの？
しろい　　うん。
はいじま　おもしろかった？
しろい　　最高。
はいじま　やっぱり、先生……
くろかわ　すごい。
しろい　　天才。
はいじま　ねえねえ。
しろい　　ん？
はいじま　前から思ってたけど、なんで、字が読めるの？
しろい　　なんでだろ。
くろかわ　線がくねくね、かくかくしてるだけじゃん。
しろい　　そういえば……
く・は　　なに？
しろい　　一族に、本を書いた先祖がいるって。
く・は　　すげー。
はいじま　なんて本？
しろい　　『吾輩は猫である』
くろかわ　内容は？
しろい　　知らん。
はいじま　ねえねえ。
くろかわ　なに？
はいじま　ほかに仕事ないかな？
くろかわ　もっと役に立ちたい？
はいじま　うん。
くろかわ　そうね、わたしも。

　　しろい、本を探していた。
　　一冊の絵本を手に、もどってくる。

しろい　　読んでみよう……
　　　　　むかし、あるところに、一人のわかものがおりました。
　　　　　わかものはまずしいひゃくしょうで、そまつないえに一人でくらしていました。あるあきの日、わかものは田んぼでのらしごとをしていました。すると、「バタバタ」という音がきこえました。
　　　　　「あれはなんの音だ？」そこには、一わのうつくしいつるがおりました。つるは、りょうしがしかけたわなにかかってくるしんでいたのです。「コー、コーコー。」「おお、かわいそうに。いたかったろう。」
　　　　　わなをはずしてやると、つるはまっ白なはねをのばして空にまいあがりました。「コー。」つるはうれしそうにひとこえなくと、山のかなたへとんでいきました。

　　くろかわ、はいじま、感動している。

くろかわ　いい話。
はいじま　なに泣いてんの。
くろかわ　そっちこそ。
はいじま　だって、わかもの……
くろかわ　やさしい……
しろい　　それからなんにちかたった、ゆきがちらつくばんのこと。
　　　　　わかものは一人さびしく、いろりの火にあたっていました。すると、いえのとをたたく音がします。そこには、いろの白いうつくしいむすめが立っていました。「このゆきの中、みちにまよってこまっております。どうかひとばん、とめてくださいませんか。」「こんなそまつないえでよければ、上がっておくれ。」わかものは、こころよくむすめをとめてやりました。
はいじま　わかもの！
くろかわ　やさしすぎ！
しろい　　ところが、むすめはいっこうにかえろうとはしません。
　　　　　そして、はずかしそうにいいました。

　　沈黙。

くろかわ　どうしたの？
はいじま　わかものは？
しろい　　……そうか。
くろかわ　むすめは？
はいじま　わかものは？
しろい　　……なんかたりない、と思ってたけど、これだよ。

　　しろい、本をしめす。

はいじま　だから……
くろかわ　読めないって。
しろい　　あ、ごめん。
　　　　　ところが、むすめはいっこうにかえろうとはしません。そして、はずかしそうにいいました。……「あなたさまのよめにしてください。」
く・は　　えー。
しろい　　「とんでもない。おれは、このとおりのびんぼうぐらし。とてもよ
　　　　　めさまなどもらえたみぶんではない。」「びんぼうでも、かまいません。どうか、あなたさまのおそばにおいてください。」わかものはそんなむすめをいとおしくおもい、よめさまにすることにしました。よめさまは毎日よくはたらきました。一人ぐらしでさびしかったうちは、見ちがえるようにあかるくなりました。「おれは、しあわせものだ…。」
くろかわ　わかもの……
はいじま　よかったね……
しろい　　……というわけ。
はいじま　つまり？
くろかわ　先生と？
しろい　　……(うなずく)
く・は　　おー。
くろかわ　先生も、
　　　　　「おれは、しあわせものだ…。」
　　　　　って言ってくれるかな？
はいじま　言ってくれるよ。
くろかわ　そしたら、恩返し成功ってこと？
はいじま　だと思う。
く・は　　おー。
しろい　　で、誰が？

　　沈黙。

くろかわ　かー！
はいじま　ちゅー！
しろい　　にゃー！
三人　　　−−−！

　　三人、威嚇する。

岩谷　　　うーん……

　　寝がえりをうつ、岩谷。
　　皆々、岩谷を見る。

三人　　　しー。

　　沈黙。

くろかわ　同盟……
はいじま　どうする？
しろい　　改訂しよう。
くろかわ　わたしたち、三人のうち、誰かが……
はいじま　け、け、け……
しろい　　結婚する。
くろかわ　先生と……
はいじま　誰が？
くろかわ　それは……
しろい　　先生が、決める。

　　沈黙。

しろい　　結婚したい人。

　　皆々、手をあげる

くろかわ　フェアにね。
はいじま　そう。公平に、平等にね。
しろい　　もし……結婚できたら？
くろかわ　祝福する！
はいじま　おめでとう、って言う！

　　皆々、メンデルスゾーン『結婚行進曲』を口ずさむ。

しろい　　ぬけがけは……
はいじま　あり！
くろかわ　でも、じゃまはしない。
しろい　　で、誰かが結婚したら？

　　沈黙。

三人　　　おめでとう！
はいじま　祝福する。
くろかわ　お祝いする。
しろい　　そうしよう。
三人　　　そうしよう！

　　岩谷、「うーん」と身をよじる。
　　皆々、注目して、硬直。

くろかわ　じゃあ……
はいじま　また……
しろい　　明日。

　　皆々、去る。

１−３４

　　岩谷、ひとり。
　　あくびをして、起きる。
　　時間を見て、誰もいないことを確認する。
　　いすから立って、絵本に気づく。
　　拾って、ひらく。

岩谷　　むかし、あるところに……