モノクロ同盟 (7)
1−18
岩谷、福永。
福永 ……
岩谷 いま、鑑定中なんで、少し待ってもらえますか。
福永 え?
岩谷 家賃でしょ?
福永 ああ、そうね。
岩谷 はいじま。
はいじま (顔をのぞかせる)はい。
岩谷 この人に、お茶をあげて。
はいじま えー……
岩谷 いやか?
はいじま いやです。
岩谷 なんで?
はいじま ……かしこまりました(福永に舌を出して去る)
福永 なんなんだ? ……先生から借りた本、おもしろかったです。
岩谷 それはよかった。
福永 映画化されてるじゃないですか。映画のほうを先に見ちゃって。
ヒロインのアナはワシントン州立大学で英文学を専攻している女子大生! ……
岩谷 大学新聞記者のルームメイトのかわりに、アナは、大金持ちの企業
家クリスチャンのもとへ、インタビューへ行く。
シアトルにあるクリスチャンの仕事場「グレイハウス」での面会に成功したアナ。
さっそくインタビューをはじめる。
クリスチャンは、アナに、しだいに興味を持ちはじめていた。
クリスチャンはアナにもう一度会いたいと思い、アナがはたらいているホームセンターへ顔を出す。
アナが、例の記事にクリスチャンの顔写真を載せたいともちかけたところ、クリスチャンは申し出を承諾してくれたのであった。
アナが卒業試験を無事に終えた日、クリスチャンから、小説2冊と、直筆のメッセージカードがアナの家に届く。
福永 そうそう……
そのカードには、小説の引用があって……
岩谷 Why didn't you tell me there was danger?
Why didn't you warn me?
危険があることを、なぜ、おしえてくれなかったの?
なぜ、警告してくれなかったの?
福永 そう! それ! たぶん!
危険な予感……残酷な運命……それでもひかれあうふたり……!
岩谷 ハーディ作『ダーバヴィル家のテス』
福永 やっぱりすごい。知識だけは。
岩谷 貸したんじゃない、差し上げたんですよ。おれはもう読まないだろ
うから。
福永 どうして?
岩谷 あわないんじゃないですか。
福永 ぼくには、ぴったり。
岩谷 結局、読まなかったんでしょう?
福永 映画で満足しちゃって。もっと、ああいうのおしえてくださいよ。
岩谷 そうですね……
1−19
はいじま、登場。
はいじま お茶がはいりました……
福永 どうも……コーヒー? ……こぶ茶? 紅茶? 麦茶? なにこれ?
はいじま 正解……
福永 ……?
はいじま 全部、ブレンドしました(去る)
福永 ……
1−20
大森、登場。
大森 隅に寄せときましたので、あとで着払いで送っていただいて……
岩谷 で、いくら?
大森 まあ、こんなところで……(伝票を見せる)
岩谷 ……いいでしょう。お金、この人にわたして(福永を指さす)。
大森 ……
岩谷 大家さん。
福永 ください。
大森 どうぞ……(わたす)
福永 ありがとうございます(その手をにぎる)
大森 ……(にぎりかえす)
福永 しろいちゃんは?
大森 ちゃん?
福永 なにしてんですか?
大森 先生の原稿を読んでますよ……もう、夢中でね……
福永 そうですか。夢中で。
大森 そう。夢中で。
福永 はなしてもらえます?(手のこと)
大森 あなたがはなさないんでしょう?
福永 はなしましょうか……しろいちゃんのこと。
大森 はなしましょう……しろいちゃんのこと。
ふたり、笑って、手をにぎりながら去っていく。
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