健康の「利回り」を可視化する – エビデンスに基づくアプローチ

健康に投資するという考え方は重要ですが、その効果を数値化することは容易ではありません。本記事では、イギリスの医療評価で用いられるQALY(質調整生存年)を基準に、具体的な健康行動の利回りを数値化します。QALYの価値を1年あたり500万円と仮定し、エビデンスに基づいた分析を行いました。

※これらの数字は全て推定値です。国や研究機関などから開示された情報ではありません。こうした考え方はまだ情報や研究が発展途上ということもあり、今後より正確な情報が私たちに届くことを期待しましょう。

健康投資に関心を持っていただくことを目的に考え方についてお伝えします


健康利回りの基本概念

QALYとは?
QALYは、1年間健康的な生活を送ることの価値を数値化した指標です。ここでは
1QALYを約500万円として計算します。日本の平均的な世帯収入を基準にしました。なおイギリスでは医療評価に活用しています。この基準を用いて、健康行動の「利回り」を次の計算式で算出します:

健康利回り(%) = (得られる健康価値 ÷ 投資コスト)× 100

たとえば、ある行動が年間0.05QALY(25万円相当)を生む場合、その行動に10万円かかったなら、利回りは250%になります。


健康行動とその利回り

1. 定期的な運動

  • エビデンス:定期的な運動は全死亡リスクを約30%低減する(Pate et al., 1995)。

  • 効果:年間0.05QALY(25万円相当)。

  • コスト:月にジム利用料や運動用具代として1万円(年間12万円)。

  • 利回り
    (25万円 ÷ 12万円)× 100 = 208%

運動は比較的低コストで高い健康価値を提供する効率的な行動です。


2. 栄養バランスの良い食事

  • エビデンス:減塩や野菜摂取が生活習慣病を予防し、健康寿命を延ばす(Mente et al., 2018)。

  • 効果:年間0.03QALY(15万円相当)。

  • コスト:食材費の増加として月5,000円(年間6万円)。

  • 利回り
    (15万円 ÷ 6万円)× 100 = 250%

健康的な食生活はコストパフォーマンスの良い投資行動です。


3. 禁煙

  • エビデンス:禁煙は肺がんや心血管疾患のリスクを低減し、健康寿命を延ばす(Doll et al., 2004)。

  • 効果:年間0.1QALY(50万円相当)。

  • コスト:禁煙補助剤やプログラムで年間2万円。

  • 利回り
    (50万円 ÷ 2万円)× 100 = 2500%

禁煙は非常に高い利回りを示し、投資効果が大きい行動のひとつです。


4. 定期的な健康診断

  • エビデンス:疾患の早期発見・早期治療による生活の質向上(Brouwers et al., 2019)。

  • 効果:年間0.02QALY(10万円相当)。

  • コスト:1回の受診で年間1万円。

  • 利回り
    (10万円 ÷ 1万円)× 100 = 1000%

健康診断は低コストで高い価値を得られる行動です。


健康利回りの重要性

健康行動を利回りという観点から評価すると、以下のようなメリットがあります:

  1. 優先順位の明確化
    利回りが高い行動に注力することで、効率よく健康価値を最大化できます。

  2. 具体的な目標設定
    「これだけの利回りがある」という数字が、行動を続ける動機づけになります。

  3. 無駄なコストの削減
    利回りの低い行動や過剰な投資を避けることで、限られたリソースを有効活用できます。


結論

健康の「利回り」を可視化することで、どの行動にどれだけのリソースを割くべきかが明確になります。エビデンスに基づき、効率的で効果的な健康投資を実践し、将来の健康価値を最大化するためのヒントとしてご活用ください。


参考文献

  1. Pate, R. R., Pratt, M., Blair, S. N., Haskell, W. L., Macera, C. A., Bouchard, C., ... & King, A. C. (1995). Physical activity and public health. A recommendation from the Centers for Disease Control and Prevention and the American College of Sports Medicine. JAMA, 273(5), 402-407.

  2. Mente, A., O’Donnell, M., Rangarajan, S., McQueen, M. J., Poirier, P., Wielgosz, A., ... & Yusuf, S. (2018). Association of dietary nutrients with blood pressure: a cross-sectional analysis of data from 18 countries. The Lancet, 391(10134), 1773-1782.

  3. Doll, R., Peto, R., Boreham, J., & Sutherland, I. (2004). Mortality in relation to smoking: 50 years’ observations on male British doctors. BMJ, 328(7455), 1519.

  4. Brouwers, M. C., Kho, M. E., Browman, G. P., Cluzeau, F., Feder, G., Fervers, B., ... & Straus, S. E. (2019). AGREE II: advancing guideline development, reporting, and evaluation in health care. CMAJ, 182(1), E839-E842.


いいなと思ったら応援しよう!