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『君たちはどう生きるか』感想※ネタバレなし

こんにちは。未来の直木賞作家、小説家の川井利彦です。

今回は7月14日に公開された宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』の感想をお伝えします。

私は公開初日に見に行って、いろいろ思うことがあったので、今回記事にしてみました。



〇異例中の異例「予告編、宣伝、CM一切なし」

さて、この映画で何より注目を集めたのが、公開日まであらすじもキャストも予告編も宣伝も一切発表されなかったことです。

唯一発表されたのは、一枚のポスターだけでした。

現代は、YouTubeを中心とした動画コンテンツの充実により、公開前に何本もの予告動画を流し、あらすじや撮影の裏側まで公開前からオープンにするのが、当たり前になりつつあります。

これまでのジブリも、公開前から宣伝や予告編を発表し、宮崎駿監督がどんな想いを込めたのかインタビューを流し、さらに映画製作の裏側をドキュメントで放送するなど、ありとあらゆるメディアを巻き込んで大々的に宣伝してきました。

そんなジブリが「一切の宣伝をしない」と発表した時は、大きな話題になりました。

プロデューサーの鈴木敏夫氏は、公開前のインタビューで……

「僕らが子どもの時は、タイトルと1枚の絵だけで映画の内容を想像するのが楽しかったんですよ。そこに戻したかった」

と答えています。


一部では昨年の12月に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』の手法を参考にしたと言われていますが、『THE FIRST SLAM DUNK』は公開前からTwitter上でカウントダウンを行なったり、声優や来場者プレゼントを発表したりしていました。

しかも「SLAM DUNK」は、すでに漫画が完結しており多くの人があらすじを、把握している状態でした。

ですから、『君たちはどう生きるか』のように、全く事前情報がないのは、異例中の異例でした。


そんな前代未聞の状態で、公開日を迎えた本作ですが、さすがは宮崎駿監督の最新作!公開初日から、多くの人が劇場に駆けつけました。


私が見に行った映画館も、平日の昼間だったにも関わず、8割くらいの座席が埋まっていました。


〇「君たちはどう生きるか」の感想

前置きが長くなってしまいましたが、ここから本作の感想を述べて行きます。

観終わった後の第一印象は……

「面白かった!だけど、一回では理解できないし、人それぞれで感じ方が違う」

宮崎駿監督らしい冒険ファンタジー、奇妙で独特な不気味さを醸し出す登場キャラクター、美しい作画に「千と千尋の神隠し」を彷彿とさせる躍動感、トトロやナウシカなど過去作のオマージュ。

特にオープニングの印象的な描写は、事前情報がなかったことも相まって、物語の中に一気に引きこまれました。

これまでの宮崎作品を好きな人だったら、面白いと感じることは間違いありません。

詳しくは言えませんが、個人的に月の光が差し込むシーンには感動しました。


このように「面白かった」と感じる反面、一回では理解できないと感じました。

余計な説明は省かれ、登場人物達の微妙で繊細な表情やしぐさ、情景描写、何気ないワンカットによって表現されており、再度見返した時に……

「あっこのシーンは、こういう意味だったんだ」と気がつけるはずです。


〇「宣伝なし」はこのためだったのか・・・

そして「人それぞれで感じ方が違う」

これが最も伝えたかったことですが、物語自体も抽象的で、はっきりとした答えが示されないまま終了してしまうため、感じ方が人それぞれで違ってくると思います。

案の定というか、宮崎監督の狙い通りなのか、ネット上では賛否両論となっています。

ちなみに『君たちはどう生きるか』と検索すると「気持ち 悪い」が候補に出てきます。


ここからは私の推測ですが……

異例中の異例である「宣伝なし」も、『君たちはどう生きるか』の物語の一部だったのではないか。


従来のように、あらすじを公開し、予告編やCMをガンガン流していれば、観客の中に「こういう物語なんだ」と先入観が出来上がります。

その上で映画館に足を運ぶのか運ばないのかを、観客自身が決めて、期待通りだったのか、期待外れだったのか、それぞれの価値観で判断するわけですが、今回のように「宣伝なし」だった場合、先入観が全くない状態で作品に触れることになります。

すると、観客それぞれの個性や価値観、好みによって、感じ方が大きく違ってきます。

まるで、真っ白な画用紙を目の前に「好きなように描いていいよ」と言われているみたいです。

画用紙に風景を描くのか、人物を描くのか、空なのか、海なのか……。
絶望か、希望か。

そこには、正解も不正解もありません。
だから、賛否両論あるのは当然で、タイトルの『君たちはどう生きるか』にも本当はこんな意味があったのではないか。

宮崎駿監督とプロデューサーの鈴木敏夫氏の頭の中には、最初からこのイメージが出来上がっており、そこから逆算して「宣伝しない」手法を選んだのではないか。

個人的にそんなふうに感じました。


〇新鮮な体験ができた

ここまでいろいろ書いてきましたが、ポスター1枚から映画を見ることが初めてだったので、とても新鮮な気持ちになりました。

今後、この手法がスタンダードになるのか、一度きりで終わってしまうのかは分かりませんが、ある意味これからの時代に合ったやり方なのかとも思いました。

情報過多の現代社会において、あえて情報をシャットダウンすることは、全く違った価値を人々に提供できる。

私も小説を無料で公開したり、あらすじを先行でお伝えしたり、情報を開示することに囚われてきましたが、無料でいつでも大量の小説が読める時代だからこそ、ジブリのような『何も見せない』ことに価値が生まれるのかもれません。


『君たちはどう生きるか』に興味をもたれた方は、ぜひ映画館に足を運んでみてください。

「もう見たよ」という方は、コメント欄で感想を教えてもらえると嬉しいです。


最後まで読んでいただきありがとうございました。
小説家の川井利彦でした。








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