癇癪持ち
頭が割れそうになる。
全身の血がざわついて、髪を毟り地団駄を踏む。
ヒステリックに叫び感情のコントロールが効かない。
思い起こせば、物心ついた時からそうだった。
思い通りにならないと癇癪を起こす子どもだった。
頭痛が酷く、ぐちゃぐちゃの精神状態で必死に夕飯を作った。
いつもならさっさと出来るような簡単な事に随分と時間を使った。
やっとの思いでダイニングテーブルを片付け、夕飯を並べた。
目の前で冷めていく夕飯を見ている。
誰もいない。
ただモソモソと口に運ぶだけだ。
親子丼とほうれん草のお味噌汁。
食べたくて買ってきたコンビニの糠漬け。
サーモンとネギトロアボカド。
『腹減ってない!!』
と、食事を拒否した息子が冷蔵庫を漁りジュースを飲もうとする。
スイッチが入りわたしはまた叫ぶ。
涙が出て止まらなくなる。
その声に気付いたのか、夫がリビングに来た。
すっかり冷め切った味噌汁に親子丼を食べはじめる。
『美味い。美味いよ。』
親子丼をかっこみ、味噌汁を飲む。
『美味い。』
違う。
今じゃない。
もう要らないんだよ。
今朝起きれなかった夫と喧嘩をした。
体調の優れない夫に追い討ちをかけるように、責め強い口調になり、耐えきれずに癇癪を起こした。
そこから夫は絶不調になり1日寝ていた。
『ご飯出来たよ。食べれる?』
『ご飯なぁに?』
『親子丼。』
こんなやりとりをLINEでした。
何分、いや何十分たっただろうか?
今更、遅いよ。
無言で食べる。
孤食はツライ。
美味い、美味いと言う夫に応えることもなく、口に運ぶ何かはわたしには何の味もしなかった。
遊びから帰った娘が
『お腹すいたー!!』
モリモリと夕飯を食べる。
『ごちそうさま〜。』
テーブルに残ったおかず達がどんどん乾いていく。
こんなもん、もう誰も食べないだろう。
夫はごちそうさまも言わず、茶碗も下げずまた部屋へと戻って行った。
わたしは親子丼を捨てた。
シンクに思い切り捨てた。
目の前で冷めきったその時に、死んだのだ。
もうなんの感情もない。
夜中に目覚めると夫はまだ起きていた。
あぁ。また明日起きれないだろうな…。
そんな気持ちが過ぎる。
『シンク見た?』
『見てないよ。なんで?』
捨てられた親子丼の具を見て夫がガックリと肩を落とした。
もうずっと前に死んだのに。
今更、遅いのに。
意地悪なわたしはわざわざ言わなくてもいいことを言った。
『シンク見た?』なんて。
言わなければ、知らずに沢山の茶碗に隠れて行ったのに。
そのまま洗い物をして、生ゴミを捨てる。
誰にも知られずに、ただヒッソリと死んでいっただけなのに。
弔いのつもりだろうか?
ごめんね。