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【太陽地獄】 統失2級男が書いた超ショート小説

「お前は地獄を信じるか?」冷房の効いた部屋でTシャツ姿の河村がゲームコントローラーを持ったまま後藤に尋ねる。「何だよ唐突に」こちらもTシャツ姿の後藤が同じくゲームコントローラーを持ったまま返事をする。「だから答えてくれ、地獄を信じるかどうか」ゲームを中断してまで交わす会話の内容かよ、と思いながらも後藤は仕方なく答える。「5%くらいかな、地獄を信じる気持ちは、残りの95%は信じていない。昔の思案家が人々に悪事を働かせない為に創作したのが、地獄だと思っているよ」「それが違うんだよ、地獄は存在する。しかも悪人だけが地獄に落ちるという訳でもないんだ。地球で生まれた生物は昆虫だろうが鳥類だろうが哺乳類だろうが爬虫類だろうが魚類だろうが、皆んな地獄に落ちる事になっている、だから人間が作り出した善悪の概念なんて何の意味もないんだ。ゴキブリもヒヨコもマグロも蟹も警察犬も善人も悪人も女も男もホモセクシャルもレズビアンも子供も大人も皆んな等しく地獄に落ちる」聞いていた後藤は呆れてしまい、「何だそりゃあ」と返すのがやっとだった。「地獄は身近な所に存在している。さっき地獄に落ちると言ったが、正確には地獄に登ると言った方が良いのかも知れない。毎日、空で輝いているだろ太陽が、あれが地獄さ。人々がどんなに善行を積んでも、死んだら即、太陽に転送されて灼熱の炎で焼かれて苦しみ続ける事になる。そして、それは太陽の寿命であるあと50億年間続く。50億年後、寿命を迎えた太陽が爆発すると、地球生まれの全ての生物の霊は別の惑星や衛星の生物として生まれ変わり、死後にまた近くの恒星で燃やされ続ける。宇宙中の全ての生物の霊は未来永劫これを繰り返す」「へぇ、霊でも熱さを感じるのか」「そうだ、霊の五感の感度は生前の千倍になる」後藤は面倒くさそうに「それは怖いな」と返した。「本当の話さ、宇宙は悪魔が作ったんだ」と河村は相変わらず深刻な眼差しのまま呟いた。そして後藤は河村を部屋に招いた事を後悔した。

13年後、後藤は30歳になっていた。後藤は最近になって高校時代にクラスメイトだった河村の『太陽が地獄』という与太話が与太話に思えなくなっていた。その原因は数ヶ月前から頻繁に見るようになった燃え盛る太陽の夢だった。その夢では太陽から人間を含むあらゆる生物の泣き叫ぶ声が聞こえて来るのだった。肝心の河村に太陽地獄説の話を詳しく聞こうにも河村は26歳の時に子宮癌で他界していて、それは叶わない。不安に押し潰されそうになった後藤は心の安定を求めて太陽地獄説を職場の同僚に話してみた事もあったが、その時は精神病院を勧められて話は終わってしまった。しかし後藤は精神病院を受診する気にもなれず、同僚からの助言には従わなかった。そして仕事もあっさりと辞めて、実家の自室に籠もるようになり、自室で宇宙を作ったという悪魔に向かって、「天国に行かせて下さいとは言いません。せめて僕と僕の家族だけは死んだら即、消滅させて下さい」と朝から晩まで毎日、死ぬまでの38年間、1人孤独に熱心な祈りを捧げ続けるのだった。

死後の後藤が太陽地獄に転送されたのか、それとも願い通りに消滅したのか、はたまた本人ですら諦めていた天国に転送されたのかは、地球で生きている人間たちには誰にも分かりませんでした。

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