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【神武天皇】 統失2級男が書いた超ショート小説

それは真冬の昼下りに東京の上空に突然やって来た。人々はそれをUFOと呼んでみたり、日本語で未確認飛行物体と呼んでみたりした。それは1辺が10Kmは超えるであろう巨大な黒い立方体で数は9つあり、縦3列、横3列の正方形の隊列を組み東京の上空に静かに浮かんでいた。東京の人々はそれを恐怖や好奇や希望の眼差しで眺めていた。とある宗教団体の代表は「審判の時がやって来た」と信者たちに恍惚の表情で語り、とある宇宙物理学者は「地球人に史上初となる地球外の友人が出来る事になった」と興奮気味に語り、とあるコメディアンは「宇宙人の実験台になる前に自分の手で自分の命を終わらせます」とSNSに遺書を投稿した後に自宅で首を吊った。またとある政治家は「天皇陛下と総理大臣と東京都知事の3人がカメラを通して来訪者たちに歓迎メッセージを送るべきだ」と主張した。だが結局、歓迎メッセージは総理大臣と都知事の2人だけで実行する事となった。しかし、思った様な成果は得られず残念ながら来訪者たちからの返事は一切無かった。メッセージは受信されたが無視されたのか、それとも周波数が合わずに受信そのものが不調に終わったのかは誰にも分からなかった。9つの黒い立方体は1日だけ東京の上空で隊列を組んでいたが、翌日になると日本各地に散って行った。その移動先は那覇市、福岡市、愛媛市、広島市、大阪市、名古屋市、千代田区、仙台市、札幌市の上空だった。これらの街の上空に1つずつの黒い立方体が静かに浮かんでいるのだった。

黒い立方体が日本の上空にやって来て16年と4ヶ月の歳月が流れていた。日本政府は地球上のあらゆる言語を使いあらゆる周波数でビデオメッセージを送ってみたり、大型ドローンを飛ばして黒い立方体の近くからあらゆる言語で音声メッセージを送ってみたりしたが、相変わらず返事はなかった。黒い立方体は16年4ヶ月に渡り沈黙を貫いていた。そして、この16年4ヶ月の間に日本人の元には明らかに奇怪な現象が起こっていた。子供たちは学力テストや体力テストで好成績を連発する様になり、日本人スポーツ選手はサッカー、野球、ラグビー、バスケットボール、バレーボールの世界大会で優勝を飾り、オリンピックでは日本人選手の金メダル獲得数が出場国中1位となり、日本人初のボクシングヘビー級チャンピオンと日本人初のUFCヘビー級チャンピオンが誕生したりしていた。また、日本の企業はロボット産業、自動運転技術を含む電気自動車産業、医療機器産業、製薬産業、家電産業、航空機産業、軍需産業、AI産業の分野で世界のトップに踊り出る事となり、日本はアメリカと中国を抜いて世界一位の経済大国になっていた。世界中の多くの人々は日本人飛躍の秘密はあの黒い立方体にあると考え、彼等は訪日を希望した。だが、日本の受け入れ体制にも限界があるので、日本政府は6年間の長期滞在ビザを年間500万人に限り50万ドルで譲渡する事にした。日本には世界中から裕福な外国人が大挙して押し寄せて来たが、彼らは6年間日本に滞在しても一向に能力が上昇する事は無く、日本政府から詐欺にあったと憤慨し日本を後にするのだった。日本人は元々IQテストが得意な民族ではあったが、しかし黒い立方体がやって来てから16年が経つと日本人の平均IQは126にまで上昇していた。そして、日本の軍事力は世界をリードする迄に発展し日本政府は在日米軍を日本から完全に追い出すと、アジア各国と軍事同盟を結んだのだった。

日本の上空に黒い立方体が出現した日から
25年が経っていた。世界は日本を盟主とするアジア、中東、アフリカの勢力とアメリカを盟主とする南北アメリカ、イスラエル、ヨーロッパ、ロシア、オーストラリアの勢力に2分されていた。両陣営は静かで鋭い緊張関係にあったが、その静寂を破って最初に攻撃を仕掛けたのはアメリカだった。アメリカが上海に超高速核ミサイルを撃ち込んだのだ。その攻撃に依って21万人の中国人が命を落とす事となった。日本政府は報復として直ちにアメリカの12の都市に12発の超高速核ミサイルを撃ち込み418万人を殺害した。結局、この争いはアメリカが中国に5兆ドルの賠償金を支払い、アメリカの大統領と6人の閣僚と8人の軍人を戦争犯罪人として国際法廷に引き渡す事で決着が付いた。15人の戦争犯罪人は5ヶ月後、一斉に絞首刑に処された。

仙台に越智祥太という28歳の男が居た。
20歳の時に大学を辞めていて、それからずっとコンビニの深夜勤をやっている男だ。実家暮らしだったので生活が苦しいという事もなく、またコンビニの仕事も気に入っていたので、祥太は自分の人生には何の不満も持っていなかった。祥太がいつもと変わらぬ勤務から帰宅し、遮光カーテンで暗くなった自分の部屋で睡眠を取っていると、夢の中に奇妙な生き物が出て来た。その生き物は人間の様に2本足で直立しているが、肌は緑色で頭には2本の角があり6本の指には水掻き、尻にはコモドドラゴンの様な大きな尾があった。しかし顔は人間の顔で、髭を蓄えたその顔は美しく威厳があった。服装は和服の様でもあり中国の服の様にも見えた。その生き物は厳かな声で祥太に語り掛ける。「私はワカミケヌと云う者だ」「へぇ日本語喋るんだね、あっ俺は越智祥太ね。それはそうと宇宙人?」「まぁ宇宙人ではあるが、日本では初代天皇と呼ばれている」「えっマジ?ワカミケヌってあの神武?神武天皇って人間じゃなかったの?」「そうだ私は地球外の出身だ、今日は私の子孫でもあるお前に命令があってやって来た」「子孫って何?俺にも宇宙人の血が入ってるの?」「そうだお前にも地球外の血が入っている。つまり高貴な血がな。本題に入るぞ、お前は摂政として今上天皇を支え、この国を世界の支配国に押し上げろ。私は25年前に日本を再訪して以来、上空から日本人の能力を上昇させ続けて来た。勿論、お前の能力も上昇している。今のお前なら摂政の役目も務まる筈だ」「あの黒い立方体の主は神武天皇なの?」「そうだ、あれは私の船団だ」「具体的に俺は何をやれば良いのさ?戦争とか?俺はそんなのに関わりたくないよ」「人類最後の大戦だ。その世界大戦の後に人類は永遠の平和を享受する事になる。祥太よ私の命令に従え、もし私の命令に逆らうのなら、永遠の命を得た後に永遠の拷問を受ける事になるぞ」「マジか、それはヤバいな。でも大学中退でフリーターの俺がいきなり摂政なんかになれるのかな?」「私は今日と明日、日本人全員の夢に登場し越智祥太という仙台の男を摂政に就任させよとメッセージを送る」「マジかよ」

祥太が摂政となった日本は大日本帝国と名を改め、天皇の君主制国家となった。祥太が夢の中で神武天皇からの命令を受け取ってから6年後、日本陣営とアメリカ陣営の間で世界大戦が勃発した。神武天皇のお陰で能力が大きく上昇した日本人の作り出すテクノロジーは、アメリカ陣営の兵器の能力を大きく上回っており、日本陣営は簡単に勝利した。祥太は死者を最小限に抑える世界大戦を心掛け、日本陣営の死者は2千人、アメリカ陣営の死者は25万2千人に留まった。アメリカ陣営の国々は永遠の武装解除を課せられ、国防業務と警察業務は日本陣営の国々から派遣された者たちの手によって執り行われる事になった。そして、日本陣営が勝利した2年後には日本各地の上空に浮かんでいた9つの黒い立方体は宇宙へと帰って行った。しかし、だからと言って日本人の能力が低下する事はなかった。その後、白人が武器を持たない世界には平和が訪れ、その平和は永遠に続くのでした。

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