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支えられて、殻を破って、思いを言葉に。『言葉の深海』【コミック感想】
漫画を読むのが大好きです。昔も、今も。
長編を追うのもいいのですが、読み切りの短編には、限られた時間とページ数の中で、ふふっと笑わされたり、グッときたり、時には鮮烈な印象があったりして、一期一会の魅力があります。
新しい作家さんを知る機会でもあります。
とても良かった短編があったので、紹介します。
(大きなネタバレはありません)
「表現」に悩んだり、今も考え続けている人に、ぜひ読んでほしい作品です。
『言葉の深海』
作者:むぎすけ
形態:読切
発表:少年ジャンプ+ 2024/09/01掲載
あらすじ:
小さいころから自分の感情を表現するのが苦手だった宏樹。自分の気持ちを分かってくれるのは愛犬のカロだけだった。しかし高校生になったある日、カロが亡くなってしまい…
(少年ジャンプ+より引用)
思いを言葉にできないもどかしさ、誰かに理解してほしいのに、その気持ちが届かない孤独感。そんな経験をしたことがある人なら、宏樹の物語に強く共感するのではないでしょうか。
自分の思いをなかなか言葉にできない男子高校生の宏樹が主人公です。
他者から見たとき、言葉にできない、その場で説明できないことは、「無かったこと」のように扱われたり、軽く見られたり、無視されたりしてしまいます。
コミュニケーション論としてはそうなのだけれど、自分にとっての心の中は「何もない」わけではありません。むしろ、言葉にして出せない、人にわかってもらえない分、たくさんの思いがうずまいています。
子どもや青年期はもちろん、大人になっても、中高年になっても、同じではないでしょうか。
大人は、子どもの時より多少つきあい方や感情の仕分けがうまくはなりますが、語らずに済ますことはやはり多いものです。
この作品を読んでいると、言いたいことが言えない、わかってもらえないと感じる、自分の中にいる「小さい子どもの自分」を思い出します。
表現できないことは、苦しい。宏樹の中のモヤモヤ感、孤独に沈んでいく心の表現は、文字とビジュアル表現とコマ割りを活かしたコミックならではです。視覚的に、迷いや絶望、救いが表現されています。
一人きりだと感じていた宏樹も、周囲の人たちとの小さなやり取りや、亡くなったカロとの思い出を通じて、混乱していた自分の心と向き合い、自分の中に閉じ込めていた気持ちを伝える勇気を得ます。
猪狩「一人では見つけられない言葉も、誰かと一緒に探せば、見つかることもあるかもしれませんよ」
とても構成とバランスがよく、読後感もさわやかです。
言葉にできない思いを伝えたい人、一歩踏みだす勇気がほしい人に、ぜひ読んでほしい作品です。読後のさわやかな感覚に、希望を感じることができるでしょう。