ヤフオク!に出品された藤井二冠(当時)の「封じ手」が欲しい!いくらを入札すればよいのか?
へ藤井聡太二冠の「封じ手」がヤフオク!に
2020年9月11日、日本将棋連盟のホームページにこんな告知が出された。
日本将棋連盟では先に行われました、第61期王位戦七番勝負(木村一基王位-藤井聡太棋聖)の封じ手を九州豪雨被災地への救援金として、ヤフオク!に出品いたします。
「封じ手」が出品されたのはチャリティー・オークションで、実費を差し引いた収益金の全額が「社会福祉法人 西日本新聞民生事業団」へ寄付されるという(ヤフオク!に設けられた特設ページ)。9月14日正午にオークションが始まり、5千円の開始価格はわずか2時間で250万円にまで競り上がった。オークション締め切りの9月20日21:00までに金額がどこまで上がるのか?まったく読めない状況だ。
ヤフオク!は2位価格オークション
あなたの競り値が1番高ければ品物を落札することができる。さてこの時にあなたが支払う金額(落札額)はいくらになるのか?「自分の付けた競り値を支払う」というのはある意味で自然な発想である。ところがヤフオク!などのオンラインオークションでは、自分の次に高い競り値に一定の上乗せ金額(入札単位)を加えた額を支払う。例えば、自分のビッド(付け値)が1万円、ビッドの次点が8千円、入札単位が250円だとしよう。このままオークションが終わったとすると、1万円を入札した落札者は8250円を支払うことになる。落札者が支払う金額は1番高いビッド(自分の付け値)ではなく2番目に高いビッド(次点、2位のビッド)であるため、このようなオークションを「2位価格オークション」という(オークション理論を使ったヤフオク!の考察については拙著『ヤフオク!の経済学』をご参照ください)。
2位オークションには最適な入札戦略がある
オークションで品物を競り落とすためには高度な戦略が必要だ、そう思うかもしれない。けれども2位価格オークションの参加者にとって、「最適な入札戦略」は実にシンプルなものであることが理論的に分かっている。その戦略とは「自分が払ってもよいと考えている金額をそのまま入札する」というものだ。この金額じゃ勝てないかもしれないなどと考えていたずらにビッドを上げたり、支払いを低く抑えるために変にビッドを下げたりする必要はない。
自分にとって「封じ手」に500万円の価値があると考えているなら、500万円という金額を最初から入札しておけばよい。ここで「価値」というのは、自分が出してもよいと考える金額の上限である。(ミクロ経済学では支払い意思額、オークション理論では評価値などと呼ぶ。)ライバルたちのビッドが500万円に届かなければ、あなたは2番手のビッドに入札単位が上乗せされた金額を支払って「封じ手」を手に入れられる。この金額は500万円よりも低い。場合によっては、誰かが500万円よりも高いビッドを付けて、あなたは「最高入札者」ではなくなってしまうかもしれない。けれども、もともと「封じ手」の価値は500万円だと考えていたのだから落札できなくてもこれは仕方がない。もしライバルに対抗してもっと高い金額を入札したら、たとえ入札競争に勝てても、自分にとっての価値を上回る金額を支払う羽目になるだけだからだ。
自分にとっての価値を正しく見積もることが大切
この話のポイントはどこにあるだろう?筆者の考えでは、自分にとっての「封じ手」の価値をきちんと見積もることが大切ということだ。ここを見誤らなければ「最適な入札」は簡単である。そしていったん入札したらオークションの推移を見ずに黙って結果を待つ。ライバルたちの入札金額が上がっていくのを見ると、焦ってしまってビッドを上げたくなるからだ。落札結果を見て、「ああ、この金額だったら自分も欲しかったのに……」などと後悔するということは、自分の入札額は「出してもよいと考える金額の上限」ではなかったということになる。このように後悔することがないよう、よくよく慎重に価値を見積もっておく必要がある。本当に重要なのはオークションに参加する前なのだ。
(追記)オークション結果は以下の通り。やはり王位を決めた第4局の価値が高いのか。
第61王位戦七番勝負第2局<木村一基王位-藤井聡太七段:5,501,000円
第61王位戦七番勝負第3局<木村一基王位-藤井聡太七段:2,001,000円
第61王位戦七番勝負第4局<木村一基王位-藤井聡太七段:15,000,000円
(2020年9月14日に Hatena Blog に掲載した記事を加筆・修正しました。)