DropboxとAdobeが提携してPDFメタ編集
老舗という言葉はDropboxのためにある
日頃私はiCloudと仕事場の都合でOneDriveを使っています。先日使わない書類置き場となっていたGoogleドライブを久々に使ってみて、そういえば Dropboxはどうなっているのだろうかと、もう1つの老舗のオンラインストレージ・サービスを思い出したのでした。
いや、そんなことをいったらBoxはどうなのかとか、SugarSyncはこの際置いといてとか、オンラインストレージの栄枯盛衰はいろいろあってパンドラの筐を開けたみたいになりそうですが、とりあえず老舗のオンラインストレージといえば私にとっては Dropboxに並ぶものはないのです。
Dropboxは、今日のように「クラウド」が当たり前になる前からオンラインに保存したファイルとハードディスクにある元ファイルを自動的に同期すると謳って登場しました。それはWebアプリであったGoogleドキュメントからGoogleドライブが枝分かれしてクラウドに進みはじめたのと同じ時期の2008年のことです。2011年には日本語版が登場していますが、こういう新しいサービスに目敏い人たちは英語版で使いはじめるのが常だったでしょう。
Dropboxはクラウドというよりもオンラインストレージ
Apple社がiPhone・iPadを活かすクラウド環境として、iCloudを発表したのが2011年でiOS 5を発表したときです。まずはiCloudはiPhone・iPadのバックアップ・システムとして使われただけで、時代が一気呵成にクラウド時代に突入したというわけではありませんでした。
それにしても携帯電話に果たしてクラウド環境が必要だったのかどうか。とりあえず、クラウドのような前例のないものを率先して導入するのはAppleの常でした。当初のiPhone・iPadのアプリはアプリの中で書類を管理するものがほとんどだったので、初期のiCloudはそれに合わせたものでした。
iPhone・iPadの利用環境であるiOSは、パソコンよりもセキュリティ管理が厳しくなっていたため、アプリ間で自由にファイルを受け渡すことはできませんでした。ファイルをやり取りするにはメールやオンラインストレージを外部ドライブのように利用してコピーしていました。そしてもう1つがアプリ間での「共有」。共有するにはファイルをやり取りするアプリ間で互換性のあるファイル形式でなくてはならず、それは写真などの画像、WordやExcelなどの文書、そしてPDFファイルなどでした。とくにPDFファイルはiOSが対応していたので複数のアプリの間でやり取りする文書として重宝されました。
もっともパソコンを使い慣れた利用者には、このアプリとファイル管理が一体になっているiOSのファイル管理は不便と思われました。
この不便さをなくすため、iCloudを今のように外部ドライブとして利用できるようなったのはiCloud Driveが追加された2014年でiOS 8からです。今の[ファイル]アプリの前身ともいえる専用アプリも追加され、iCloudが iCloud Drive として可視化されたともいえます。
ついでに付け加えると、この[ファイル]アプリが追加されたのが2017年でiOS 11のときでした。
アプリがないのがDropboxの弱点
iCloudの改良は、アプリが高度になってパソコンのようにファイル管理が必要になって来たからでしょう。またファイルをやり取するにしても、オンラインストレージ経由でコピーしなくても、iCloud Driveを使ってコピーできるようになり、パソコンとのやり取りが容易になりました。
これがiCloudの今までの道のりですが、そこにiPhone・iPadの歴史を重ね合わせて振り返ると、そこにクラウドの道ができていた、というのもAppleらしいといえます。
同様にアプリの使い勝手を向上させるために、進化していたのがOneDriveやGoogleドライブでした。前者はMicrosoftOffice、後者はGoogleドキュメントのファイル管理を中心に、それぞれがパソコンやスマホ・タブレットのアプリやOSと連携したといえます。
ここでもう一度クラウドとは何かと問うならば、クラウド=アプリ+同期できるオンラインストレージといえばわかりやすいと思います。クラウドの中でアプリの存在は大きく、単に同期ができればクラウドというわけではありません。
クラウドはいわば舞台裏の黒子です。日常的に作成するのは文書であってクラウドではないのがポイントなので、どんなアプリを使いやすくするかでクラウドの性格が決まります。そうでなければ、今では多くのクラウドがあるので、利用者はアプリが使い易くて、利用コストがなるべく掛からないクラウドに乗り換えられてしまうかもしれません。
ところが、オンラインストレージであるDropboxは、ファイル管理には優れていても特定のアプリのための利用環境ではなかったのが弱点だったといえます。Dropboxはクラウドというより、同期によってレベルが1段階上がったオンラインストレージだったといえます。
Adobeと提携はお互いにベストかもしれない
そんなオンラインストレージで生きるDropboxは、他社アプリとの連携には積極でした。オンラインストレージですから当初は競合とは記憶容量などで競っていましたが、容量競争が落ち着いてクラウドが仕事環境になっていくと、Microsoft Office との連携などを打ち出しました。そうはいっても、利用できるOfficeアプリもオンライン版に限られていました。また、Microsoftにしても自前のクラウドであるOneDriveが完成するまでの提携といえました。それでも「Microsoft Officeが使える」というのは、クラウド環境でもChromebookというデバイスでも大きなお墨付きになるということを老舗だからこそ熟知していたのでしょう。
そんなMicrosoftとDropboxとの提携も、MicrosoftがOneDriveという自前のクラウドで自社アプリに注力できるようになると共に自然に縮小していくことになり、Dropboxが次の提携先として選んだ相手はAdobeでした。
AdobeはGoogleドライブとも提携していますが、有名アプリは持っていても強力なオンラインストレージを持っていない大企業Adobeとアプリを持たないオンラインストレージ運営会社であるDropboxとの提携は興味深く思えました。
役割分担ができているDropboxとAdobeの提携
とくに注目したのは、DropboxとAdobeでうまい具合に役割分担ができているところです。ファイル管理とプレビュー担当は今まで通りDropboxですが、PDF編集するには編集したいファイルのプレビューを選択し、「開く」ボタンをタップする。するとAcrobatのクラウドに切り替わり、Acrobat DCで注釈・コメントを付けたり署名が無料でできるほか、有料のサブスクリプションを契約すればPDFメタ編集もできます。さらに編集後に保存すると、Dropboxと同期してDropbox側のファイルが更新されるというのは、これまでのAcrobat DCよりも使い勝手が良く思えます。
Acrobat DCはOCRも利用でき、Acrobat DCは便利で使い勝手も良いが無料では容量が足りず、デザイナーやイラストレーターでない利用者には敷居が高かった感じでしたが、オンラインストレージとしてDropboxを利用すれば、Acrobat DCを作業場としてだけ使えて便利であり、Adobeとしてはサブスクリプション契約が少しでも増えれば良いというお互いに利点がある提携になっています。
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