本のおすすめ:研究する自分を振り返るきっかけのために
わたしたちは日々、遠い世界で、そして自分たちの周りで起こっていること、そして自分たちが向き合う他者を理解し、説明しようと、調べ、考え、議論しています。そんな中では、外にあるものごとがどうなっているのか、とわたしたちの意識は常に外に向かって、見えているものを吟味しようとしています。しかし、見えていると思っているものごとがどのように見えるのかは、実はわたしたちの観る態度に多分に影響を受けます。今回紹介する3冊は、そんな自分の中にある見方、捉え方を振り返り、考え直してみるきっかけとして、おすすめします。
『人間にとって科学とはなにか』は、物理学の権威と人類学の権威の対談ですが、問いや探究を深めていくと自然科学と人文学の間にあるかと思える境界がなくなっていくことがみてとれます。また、タイトルにあるように、この本は、これは科学の営みやそこから生み出されるものが社会とどういう関係にあるのか、という今日特に重要さを増してきている問いを投げかけてくれます。
『わかりあえないことから』は、他者との関係性、伝え合いという営みについて、わたしたちの再考を促します。他者に向き合いコミュニケーションに臨むとき、わたしたちは「通じるはず」と思って振る舞いがちで、その期待に反することが起こると「ミス」とか「事故」と考え、問題を探し始めます。しかし、この本では、その前提こそが伝え合いの機能不全を起こす根本原因だと言います。わたしたちはそもそも「わかりあえない」もので、つながりはその前提から作っていかなくてはならない、と。ことばが通じる奇跡に気づくことができる一冊です。
『ネガティブ・ケイパビリティ』:この本が論じるネガティブ・ケイパビリティとは、どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力のことです。今は急激で予測しにくく複雑な変化が多方面で起こる時代です。難しい問題が山積していることはたしかですが、その解決をさらに厄介にしているのは、解決を焦って短絡的な対処を重ねてしまうという誤りでしょう。そこに欠けているのが、このネガティブ・ケイパビリティ。この重要な力に、この本は気づかせてくれます。
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