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🌟きよしこの夜🌟が最初に歌われた夜
1818年クリスマス・イブの夜のことです。
オーストリア・チロル地方の
オーベンドルフ村にある
聖ニコラウス教会のオルガンの音が
まったく出なくなってしまいました。
オルガンのふいごが
ねずみにかじられてしまったのです。
風を送ることができなくなり、
オルガンの音が出なくなったのです。
そこで、
急遽、助祭のヨゼフ・モールが歌詞を書き、
教会のオルガニストで小学校の校長をしている
フランツ・グルーバーが曲をつけました。
歌は礼拝の始まる30分ほど前に
出来上がり、
ギター伴奏により、
3度の和声をつけて二人で二重唱し、
聖歌隊がそれを繰り返しました。
これが「きよしこの夜」の
初演奏でした。
最初は、
オルガン奏楽なしの礼拝に
がっかりしていた教会の人々でしたが、
この讃美歌を聴き、
次第に感謝と喜びに満たされました。
当時、ナポレオン戦争により、
ヨーロッパは徹底的に破壊され、
オーベルンドルフも他国の支配下にあり、
厳しい時代を過ごしていました。
社会全体を取り巻くくらい空気に対して、
モールとグルーバーは
クリスマスキャロルによって
少しでも人々に希望を
与えたいと願いました。
作詞者のヨゼフ・モールは、
その付近に駐屯していた一兵卒と
お針子の間に生まれましたが、
まもなく父親は行方知れずになり、
やっと名づけ親になってくれた人は
死刑執行人でした。
当時としてはこれ以上ない最悪な素性で、
人に言えない苦しみをなめました。
幸いなことに彼は優秀な子でしたから、
やがてある人の養子となり、
ザルツブルグの神学校で学び、
聖職者の資格を得ました。
しかし、その生まれのゆえか、
ついに司祭になることなく、
ザルツブルグ付近の
いくつかの教会を歴任して
目立たない生涯を助祭として
終わったということです。
まさか自分の作った讃美歌が
のちに世界中で歌われるようになるとは、
思いもしなかったことでしょう。
自分のような父なし子は、
この世に生まれるべきではなかったと、
運命を嘆いていたヨゼフ・モールに
聖書は語りかけます。
聖霊なる神の力にあずかるならば、
どんなに罪に汚れた者でも、
どんなに忌まわしい運命や血統に泣く人でも、
尊い神の子に変わります。
贖いの体験を知ったヨゼフは
その思いを書きました。
「主イエスの誕生によって、
救いのときがついにやってきた」
ヨゼフの叫びです。
その救いは個人の救いにとどまらず、
傷ついた世界や
行き詰まった民族を救ってやまない、
主イエス・キリストの力強い福音です。
主イエス・キリストの魂を
内に迎える喜びこそがクリスマスです。
このクリスマスキャロルは
完成して間もなく、
当時の旅商人によって
オーストリアの国境を越え、
広く伝えられていきます。
そして旅商人はドイツの見本市で歌い、
この歌に秘められた思いは、
聴くものすべての心に響き、
プロイセン国王の王宮で
披露するまでになり、
1854年には
プロイセン宮廷の音楽監督が
楽譜を所望し、
それにより作曲者グルーバーは
その創作の歴史を執筆し、
初演の模様が事細かに
描写されました。
そして世界に広められ、
極東の日本では由木康先生が
歌詞をつけられ、
今では誰でも知っている
クリスマスキャロルになりました。
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今年、
この讃美歌を聴かれるとき、
ヨゼフ・モールのことも思い出してください。
どんなに暗い人生でも、
だからこそ、
光は美しく輝くものなのでしょう。
ドイツ語でかかれたその歌詞の日本語訳です。
1 静けき夜 きよき夜
すべて眠るなか ただ聖夫婦のみ めざめおり
かわいい巻き毛の御子は 天の平安のなかに眠る
2 静けき夜 きよき夜
神の御子がほほ笑む 神の口より告げられる愛は
われらに救いのときをもたらす イエスはうまれたまえり
3 静けき夜 きよき夜
天の輝く高みより 世界への救いがもたらされた
あふれるばかりの慈しみが明らかにされた
イエスは人となりたもう
4 静けき夜 きよき夜
きょう 父なる神の御愛は 力もてあらわれたまいき
イエスは兄弟愛でいだきたもう
世界のひとびとを
5 静けき夜 きよき夜
いにしえより定められてあり 主が憎悪をとりさりたもうと
そは世の創めより約束されてあり
世界全体の御救いを
6 静けき夜 きよき夜
まず羊飼いらに知らされた 天使がうたうハレルヤが
あちこちにひびきわたる たからかに
救い主イエス ここにいます
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このお話しを教会の礼拝でしてくださった敬愛する牧師は、数年前に天に召されました。
「きよしこの夜」はクリスマスの讃美歌の中で最も有名なキャロルだと思います。
さて、聖ニコラウス教会は12世紀にはじまり、長い歴史の中で洪水や火災により何度か修復、建て直しをしてきました。「きよしこの夜」が誕生した当時の聖ニコラス教会は1798年に建造されたものでした。その教会も18世紀に起こった2度の洪水被害により大きな損傷を受け、19世紀初頭に聖ニコラス教会は取り壊されてしまいました。
時は流れ、かつて聖ニコラス教会が建っていた場所に、現在見られる六角形をした小さく可愛らしい「きよしこの夜礼拝堂」が1937年に建設されました。
クリスマス礼拝には世界からたくさんの人が訪れるそうです。
良いクリスマスをお迎えください。