蓼科物語 わすれなぐさ編
蓼科高原の人気スポットといったら、
バラクライングリッシュガーデンがあります。
蓼科高原バラクライングリッシュガーデン
日本初の本格的英国式庭園で、
ガーデンには5,000種に及ぶ植物が
季節ごとに美しく咲いて
訪れる人の目を楽しませてくれます。
横浜は5月の今頃に薔薇の花が一斉に咲き、
私の家の近くのイングリッシュガーデンには
連日多くの人がたずねます。
でも、蓼科では薔薇は6月に入ってから咲き始めるので、
残念ながらこの時期に薔薇を見ることはできませんでした。
チューリップは時期を過ぎているので、
なんとなくお庭は休憩時間という風情です。
お庭の奥に進んで行きますと、
そこにはわすれなぐさが群生していました。
わすれなぐさ・・・
可憐な青い小さな花
私は大好きなんです。
勿忘草の花言葉は
「真実の愛」
「誠の愛」
「私を忘れないで」
この花の名はドイツの悲恋物語に由来しています。
中世ドイツの恋人たちの悲しい伝説
ある日、ルドルフという名の騎士と、
その恋人ベルタがドナウ川の岸辺を歩いていました。
ベルタはその急流の中に、小さな青い花を見つけました。
「まあ、なんて綺麗なお花でしょう」
ベルタがその花をほめました。
ルドルフは愛するベルタのために
その花を摘もうと、
岸辺に降りました。
花を摘んで手にしたとき、
足を滑らせて、
川に落ちてしまいました。
そして、ルドルフの身体は急流に
飲まれてしまったのです。
ルドルフは力を振り絞って
手にした花を岸辺のベルタに投げると、
「僕を忘れないで!(Vergiss-mein-nicht!)」と叫び、
急流に消えてしまいました。
ベルタは花を胸に抱き、
さめざめと涙を流しました。
ルドルフのお墓には
その花を供え、
最後に残したかれの言葉を
花の名前にし、
いつも欠かさず、髪に飾り、
生涯、ルドルフを愛し続けました。
これが、勿忘草にまつわる有名な伝説です。
そもそも世界各地には神秘的な力を持つ
「青い花」が地中の宝を開いて見せる、
という民間信仰がありました。
ドイツにもその信仰が伝わっており、
この伝説にもおそらく、
その影響があったようです。
「私を忘れないで」そして「真実の愛」
この伝説は勿忘草(Vergissmeinnicht(フェァギスマインニヒトゥ))という名前と、
「私を忘れないで」という花言葉を生みました。
もうひとつの花言葉は「真実の愛」です。
これは、ベルタが失った恋人を生涯思い続け、
純潔を守り抜いたということに由来します。
悲しい伝説からは、ふたつの花言葉が生まれました。
この伝説は後にドイツの詩人ウイルヘルム・アレントによって詩になりました。
その詩を上田敏が「海潮音」で訳詩しています。
わすれなぐさ
ながれのきしのひともとは、
みそらのいろのみづあさぎ、
なみ、ことごとく、くちづけし
はた、ことごとく、わすれゆく
さすが上田敏の訳詩です。
注釈をつけるのはもったいないですが、
「ひともと」は一本の草や木 この場合は勿忘草ですね。
「みづあさぎ」はやわらかい青緑のこと。
ユーミンの詩にありそうですね。
もうひとつの伝説
エデンの園に咲く花々に、アダムが名前をつけるように
神様が言いました。
全ての花に名前をつけ終わったと思った時、
足元から小さな声が聞こえてきました。
「私にもどうぞ名前をつけてくださいな」
アダムが声のする方を見ると、
そこに小さな美しい花が咲いていました。
「こんなに美しい花に名前をつけ忘れたなんて…
絶対に忘れないように「わすれなぐさ」と名付けよう!」
そうして、アダムは「わすれなぐさ=勿忘草」
という名前をつけました。
あなたは悲しい恋人たちの伝説と、
アダムの名づけの伝説、
どちらがお好みですか?
忘れな草はドイツでは”Vergiss-mein-nicht“
英語も直訳の” Forget-me-not”です。
日本では明治時代に植物学者の川上滝弥によって、
「勿忘草」「忘れな草」と訳されました。
合唱曲 忘れなぐさ
作曲:中田喜直
作詞:深尾須磨子
忘れなの 花の言葉よ
きよらな まごころを
君にささげ
忘れなと いつまでも
忘れなと
ああ やさしい花の言葉
胸に秘めた花よ
そらのかげとうつす
花の色よ
忘れなの 花の言葉よ
みそらの 色にかおる
花によせて
忘れなと 君に送る
わがおもい
ああ やさしい花の言葉
女学校時代、毎年合唱コンクールがありました。
高校2年のときに、
この曲が課題曲になりました。
今でもそらで歌うことができるほど
クラスで一所懸命練習しました。
勿忘草の咲くお庭を歩いていたとき
私の頭の中にはこの歌が流れていました。
あのときの感情も蘇ってきました。
蓼科に旅は大切な、
ほんとに大切なお友達と
いっしょに過ごした旅でした。
勿忘草はその旅の思い出に
文字通り
美しい花を添えてくれました。
一生、勿忘草を見るたびに
この旅を思い出すでしょう。
感謝❤️