📗アンの娘リラ📗③村岡訳と松本新訳読み比べ👓
1月も半分過ぎていきます。
被災された方々のことを思うと、
静かに本を読んでいるのも申し訳ないなあという
気持ちになってきます。
心を落ち着けて思索をすることが今私のできることだと思って
今日も「アンの娘リラ」について書いていきたいと思います。
私のKindleには「赤毛のアン」シリーズの原文(英語版)が
全部入っています。
お正月期間で英語と松本訳を読み終え、
先日、松本訳と村岡訳を読み比べてみました。
第23章 それでは おやすみ
「アンの娘リラ」の中で一番感動的な23章「それではおやすみ」
テキストにしてみました。
美しいものを愛し、詩人になることを夢見ていた
ウォルターが死を目前にした夜、
愛する妹リラに書き送った手紙が
書かれていて、
涙無くしては読めない章です
①
村岡訳→「われわれは明日、頂上を越えることになっている、リラ・マイ・リラ」【P390】
松本訳→「われわれは明日、塹壕の壁をこえて突撃します、リラ・マイ・リラ」(2)【P360】
注釈(2) going over the top 一般の塹壕戦は、地上に掘った深い溝の上から銃口を出して撃つが、その壁(the top)を越えて、地上に出て突撃すること。相手から銃撃されて死亡する危険性が高い。
そうだったんだ・・・・!頂上を越えることになっている・・・という意味がこれでよくわかりました。
辞書を引くと、塹壕の壁を越える という意味が書いてありました。
top にはこんな意味もあるのだとわかりました。
②
村岡訳→ リラ、笛吹きは明日笛を吹いて『あの世』へ僕を行かせるだろう。僕は確信している。しかもリラ、僕は恐れないのだ。知らせを聞いたとき、このことを思い出してくれたまえ。ここで僕は自分の自由をーあらゆる恐怖からの解放をかちえた。【P392】
松本訳→ リラ、明日、笛吹きはぼくに笛を吹いて、『あの世』へつれていくでしょう。それははっきりとわかっています。でも、リラ、ぼくは怖くはありません。その報せが届いたら、思い出してください。ぼくはここで自由を・・・恐怖から解放を勝ち取ったのです。【P362】
“west”は「あの世」西ではないのですね。
③ faith
村岡訳→ 誓い【P395】
松本訳→信念【P364】
faith とくると私はやはり「信仰」と読んでしまいます・・・・
④
村岡訳→ 明日、われわれが頂きを越えるとき、僕は君たち二人のことを考えるだろうーー君の笑いと、リラ・マイ・リラ、それからユナのしっかり落ち着いた青い目をねーーどうしてか今夜はあの目もはっきり見えるのだ。そうだ、君たちは二人とも誓いを守るだろうーー僕にはそれがわかっているーー君もユナも。それではーーお休み、われわれは夜明けに頂きを越えるのだーーー【P395】
松本訳→明日、塹壕の壁を越えて突撃するとき、ぼくは君たち二人のことを考えます・・・きみの笑顔を、リラ・マイ・リラのことを、そしてウーナの青い瞳の揺るぎない表情を・・・どういうわけか今夜は、あの瞳がありありと目に浮かびます。そう、きみたち二人とも・・きみもウーナも信念を守っていくだろう・・・ぼくはそれを確信しています。それでは・・・・おやすみ(6)夜明けに、ぼくらは塹壕の壁を越えて、突撃します。【P364】
(6)詩「フランドルの野に」で戦死兵が正義の戦争を戦ったという信念を後に続く者たちも守ってほしいと述べる部分に対応。
⑤
村岡訳→ 「誓いは守ってよ、ウォルター!」リラはしっかりした声で言った。「わたしは働きー教えー学びー笑ましょう。ええ、笑ってだってみせるわーー 一生ね。あなたのために、それからあなたが呼び声に従って行ったとき与えたもののために」【P395】
松本訳→ 「私は、信念を守っていくわ、ウォルター!」リラは、はっきりした声で言った。
「私は働いて・・・教えて・・・学んで・・・そして笑うわ、ええ、笑ってみせるわ・・・私の全生涯をかけて。あなたのために、そしてあなたが笛吹きの呼び声についていったとき、あなたに捧げたもののために」【P365】
「誓いは守ってよ!」これが村岡花子訳の特徴的言い回しです。
私もよくこう言ってたことを思い出しました。
I will !リラの強い意志を表していますね。
faith はたくさんの意味を持ちますが、信念、誓い、私はやっぱり信仰かな・・・
⑥
村岡訳→ユナは手紙を受取り、リラが去ってしまうと、手紙に淋しく唇を押し当てた。ユナは自分の生涯に二度と愛が入ってこないことを知ったーーそれは『フランスのどこか』の血に染まった土の下に永遠に葬られたのである。あたしのほかはーーたぶんリラはーー知っているかもしれないがーーだれもこのことを知らないだろう。長くつづく苦痛を一生懸命に隠しながら忍ばなければならないーー 一人で。しかし、あたしも誓いを守ろう。【P396】
松本訳→ウーナはウォルターの手紙をうけとった。リラが立ち去ると、ウーナは、その手紙を唇に押しあてた。ウーナは、自分の人生に、もう愛は訪れないと知っていたーーその愛は「フランスのどこか」の血に染まる大地の下に、永遠に埋葬されたのだ。ウーナのほかはーーリラは知っているかもしれないがーー誰もその思いを知らなかったーーこの先も知ることはないだろう。世間からすれば、ウーナに嘆き悲しむ理由はない。だからウーナは、この果てしない苦しみをできる限り隠して、耐えなければならないのだーーたった一人で。けれどこの私ウーナも、信念を守っていこう。【P366】
23章は
いかがでしょうか・・・?
翻訳者の解釈、選ぶ言葉によって
違いが出てくるのがわかりますね。
これから先、翻訳という仕事は
AIの専門分野になるかもしれませんね。
意味があっていても
文章のニュアンス、情感というものは
言葉によって変わってくると思います。
「私は『赤毛のアン』が大好きで
今まで何度も読み返しました」という方にこそ
今回の新訳を読んでいただきたいと思います。
「赤毛のアン」シリーズはこの物語で終わりとなりました。
その後1933年にドイツではヒトラーが政権を掌握し、
1939年にドイツがポーランドに侵攻し、
第二次世界大戦が始まります。
晩年になっていたモンゴメリは
「ブライス家は語られる」“The Biythes As Quoted“を書きました。
その冒頭にウォルターの書いた詩『笛吹き』が置かれています。
正義の戦争・・・と信じて命をかけた若者たち
愛する人を戦争に送った娘たち
いつも世になっても戦争は良いことなんかないと思います。
今の世の中、笛吹きはどんな笛を吹いているのでしょうか。
フラフラついていくのは
若者だけではない時代・・・
気をつけたいと思います。
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