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思い出深い患者さん

 書いておきたい方があります。
 80代の女性で、毎回、外来のたびに職員にお菓子を持って来られる方がありました。それも大きな袋いっぱいに売店で買われたお菓子を、毎回いただきました。
職員も私もこの方が来られると、お菓子がもらえると少し楽しい気分になりました。職員はお菓子を持って行くと喜ぶということを知っておられました。ある日トイレで転倒して足を挫いて動けなくなられ、数時間後に家族に発見されました。その時は、下肢の筋肉の挫滅が起きており、私は残念ながら年齢も考えると、もう歩くことは難しいだろうと思いました。しかし、気力はしっかりしておられ、頑張ってリハビリしますと言われ、リハビリ病院に転院して行かれました。それから3ヶ月ほど後に見事、歩行器で歩行可能となられて帰って来られました。これには正直驚きました。しきりに頑張ったことを仰られます。これには掛け値なしで「すごいですね。」誉め讃えずにおれませんでした。
 戦争で日本が負けて、中国から帰って来られたそうです。日本人は満州でいい暮らしをしていて、中国人を使用人のように雇用していたということでした。その時、鄧さんといういい方がおられて、家財道具を全部差し上げて帰ってきたと言われます。その人が鄧小平のようだとおっしゃるのです。これは年代も場所も隔たりがあるので、間違いであろうと思います。同じ鄧さんなので、似ていたのかもしれません。
 そんな話もされながら、リハビリで元気になった後も外来通院を続けておられました。ところが、ある晩に急に腹痛となられて、急性の腹部疾患のために翌日死亡されました。他人を喜ばせる生き方をされた立派な方だったなと強く記憶に残っています。

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