#7 アメリカで会社をつくる(2) 【O-1ビザ前編】
前回に続いてmonopo nycの設立から自身らの雇用までのステップ、私たちのシナリオでいうところのアメリカのOビザ取得までの道のりを書いていきたいと思います。このnoteは空いた時間で短い乱文をまとめる形で書いているのですが、記憶を遡っているうちに一万字近くのボリュームになってしまいました…。そこで本記事をどのような経緯、またストラテジーでOビザを選択したかを語る【前編】として、実際のOビザ取得難易度の分析や移民弁護士の選定方法の紹介などは【後編】として、来週の公開にしようと思います。
さて、#6 ニューヨークで会社をつくる(1) 【B-1ビザ編】では、「B-1ビザ」で渡米してから、なんとかオペレーションの解像度を上げていくという「計画とは言えない計画」を立てたというお話でした。前記事の繰り返しになりますが、Bビザと言う非移民ビザは訪問者というステータスなため、アメリカでの就労活動もできない、ゆえにNY支社という法人格が実際オペレーションすることはできません。現地クライアントからの報酬や自身の給与も、monopo Tokyo本社を通す…。そんな営業所的な立ち位置でのスタートでした。
なんとか支社としてオペレーションできるように、居住者ステータス・ソーシャルセキュリティナンバーを得れるビザをゲットしたい…!そんな今回の続編ですが、【私たちがOビザを選んだ経緯】、【Oビザ申請におけるストラテジー】について、体験談ベースでシェアさせていただきます。
1. 先輩たちに聞いてみよう!
Bビザで渡米したばかりの当時は、楽観的にもこんなことを考えていました。
「とりあえずスタートラインには立てた」
「現地でネットワーキングすれば、裏技に出会うはず!」
「同じ試みを成功させた企業から正解がきっと聞ける」
そんなポジティブな期待を探るべく、日本から来たという共通項だけで会ってくれた・アドバイスをくれた方々、他にも知り合いの知り合いなど、さまざまな先輩起業家たちに連日お会いさせていただきました(みなさんお時間を割いていただき、そして貴重なインサイトをいただきありがとうございました!)。
基本的には「すでに市民権・グリーンカードを持っている」という方が多かったです。少し前までは学生でもソーシャル・セキュリティー・ナンバーをもらえた時代があったので、その頃から学生としてアメリカにいたパターンや、グリーンカードを持っている方と結婚したことで自分もグリーンカードを得た例(ちなみにその後離婚しても、一度得たグリーンカードはキャンセルされないそう)、昔駐在で住んでいてのちにグリーンカードがある状態で起業した例、DV抽選などでグリーンカードをゲットした例、また稀ですが純ジャパだけど親がハワイで出産してくれたなど(アメリカで生まれた人は市民権がもらえます)さまざまでした。
求めていた「シンプルな答え」や「裏技」なんてものはないんだな…と落胆していたとき、グリーンカード保持者で小さなデザインスタジオを経営しているある方が、こんなことを言ってくれました。『うちの会社がスポンサーする形で、Oビザ申請したらどうですか?うちの社員は基本Oビザですよ』。
Oビザとは、いわゆる「アーティストビザ」のこと。存在については知ってはいましたが、イメージとしては舞台女優やヘア・メイクアップアーティスト、ダンサーや歌手など、「アート」や「エンターテイメント」の分野の人が、個人で取るものだと思い込んでいました。クリエイティブ分野の申請者にも適用できることに感動しつつも、この時点では、「会社がスポンサリングするってどういうこと?」、「(当時は登記もしていない状態だったので)monopoとしてではなく、他社のスポンサリングを介すしかないのか…」などの不安や疑問がある状態でした。
2. 士業の皆さんに聞いてみよう!
米国起業の先輩方からインサイトを得ると同時に、しかるべき人に相談もしていました。当時日本でお世話になっていた士業の方々からご紹介いただいた米国移民弁護士の方々、ググって見つけた移民弁護士の方々からもアドバイスをいただきました。もらった意見は大まかにまとめると以下のようなものでした。
「Eビザを取るには相当な投資額が必要ですよ」
「Lビザを取るには米国現地での投資実績がないので難しいと思います」
「Oビザを取るには渡辺直美くらいの実績がないと厳しいですね」
文章にすると割とネガティブな評価をされたように感じるのですが、「EもLもOも厳しいと言われたけど、どれも不可能ではなさそう。選択肢としてはたくさんあるということやな」くらいに前向きに考えていました。このときポジティブに捉えていた理由ですが、以下のふたつがあります。
2-1. 移民弁護士の中にも専門が分かれている
移民弁護士さんとの面談数をこなしているうちに気づいたこと、それは広くさまざまなビザに精通しているオールラウンドな方は少ないということ。
例えば「あなた渡辺直美じゃないですよね」とOビザに懸念を示した弁護士は、ビジネス文脈でのグリーンカードと、Eビザが専門なようでした。また彼は割とサイズ感の大きい企業向けの案件を主に担当しているので、私たちのようなスモールサイズでのスタートに対するインサイトはあまりないようでした。ややこしいのが、彼らのなかには、ウェブサイトに全面的なビザのサポートを行っていると書いている方も多いんです。そのように書いて、実際にヒアリングセッション内で自分たちの専門種別のビザを薦める、というパターンが多いように感じました。またよくよく聞くと、Oビザを扱ったことのある弁護士でも、実は私たちのような広告業界の申請者のファイリングをしたことがないという方もいました。
アメリカの弁護士ビジネスは(士業ビジネスだけではないと思うけど)、「私の専門ではないので、このような人を頼るといいよ」などと親切心からリファレルに繋げてくれることはほぼなく、それゆえ「私たちは何年もこのビジネスやってるけど、あなたたちのようなケースでビザ取得に成功したことはない、もう少し大きい投資ができるようになってから出直した方がいい」など、確度について悲観的なコメントが出てくることもあったのかなと思います。後で徐々にトーンを理解していったのですが、「自分の専門ではない」とは言ってくれる人は少なく、「あなたに問題がある」というスタンスに出会うこともしばしばでした。
2-2. マッチする弁護士に出会うには時間がかかることも
以上の肌感から、そのうち同じようなクリエイティブ界隈で、小さいサイズでビジネスを展開されている方に弁護士のリファラルをお願いするようになりました。Oビザを取得したフリーランスのアート・ディレクターやクリエイティブ・ディレクターの方からもアドバイスをいただく機会があり、「大事なのは『あなたの能力なら勝算はある』と信じてくれる弁護士を選ぶこと」だと強調してくれました。
弁護士側も成功率を気にしている人が多く、担当したビザ申請が失敗に終わるのは避けたいそう。なので両当事者の利害を一致させるためにも、ヒアリングの時点で「あなたは受けることができません」「あなたは実績が弱いので、PR頑張ってから6ヶ月後に出直してきてください」など割とストレートに伝えてくれました。経験や分野などがマッチングしたときに、初めて受注したいと言ってくれる人が現れるはず。そう信じていたので、諦めずに、担当してくれる弁護士さんを探し続けようと考えていました。
3. 個人の実績は関係ない?勝算シナリオ
結果的にはタイトルにある通り、私と共同創業者の二人ともO-1ビザを選択しました。実はしばらくEとLと迷っていたのですが、Oに決めた主な理由にはこのようなものがあります:
一番大きかったのは上記の1ですが、自信を持って決めれたのは、最終的にお願いすることになる移民弁護士の方と話したときに「『アーティストビザ』と聞くと個人の知名度に左右されるイメージがあるが、monopo nycという会社がスポンサリングすることができ、またその母体であるmonopo Tokyoの信頼度を証明できれば通る」と教えてもらえたからです。
それにより私たちのビザ申請のためのストラテジーは、
・monopo nycは実績はまだないが、本社であるmonopo Tokyoが100%資本を持つ形に見せる
*ビザが降りた後は、オペレーション形態は変更可能
・monopo Tokyoの社員2名である私と共同創業者の、monopoとしての東京時代の実績を証明
といったシンプルな形となって、ようやく見えてきました。
O-1とは通称「アーティストビザ」と言われています。正式には「卓越した能力保持者ビザ」と呼ばれ、芸能分野だけでなく、科学、教育、ビジネス、あるいはスポーツの分野においても発給されます。
「卓越した能力」なんて言葉を聞くと、著名な賞を取ったり、業界紙で紹介されたり、本を書いたりしていないといけないのでは…?と思う方も多いかもしれません。実際私もそう思っていたし、実際申請書のクライテリアにもそのような実績を持った人が申請に値すると定義されています。ただこれらの「実績」ですが、私たちのストラテジーにおいては団体としての実績も受け入れられる、またかなり多様でフレキシブルな形式も資料・証拠として認められるので、後編記事でじっくり因数分解していきたいと思います。
4. おまけ:検討した他ルート
ここまでお話しした通り、一旦は方向性が見えた移民ビザ問題。ただOビザの申請を決断するまでに、他の意見も出てきました。なぜそれらを選ばなかったかを軸に、ふたつ紹介したいと思います。
「Bビザ延長し続けたら?」
移民ビザは難しいと前置きされた上で、「1,000ドルだけで、新たなまっさらなBビザを更新できるよ!新しいBビザだから、入管でも怪しまれないよ!」と提案してきた個人向け移民弁護士・行政書士の方がいました。ただどうせBビザを延長したところで、買えるのは時間だけ。ソーシャルセキュリティナンバーも、就労許可もない状態でこれ以上アメリカに滞在するのもキツか
ったので、こちらの提案には興味がありませんでした。
また実際Bビザを延長して空港の入管で「なぜ延長したか」を詰問された人たち、また母国に送り返された人も知っています。一度強制送還が起きてしまうと記録に残ってしまうし、できればそんなリスクをとりたくはないですよね。
申請において自信をなくしたり、不安になることもあるかもしれませんが、根本的な解決策を提示してくれない人の意見には慎重になりたいものです。
「いきなりグリーンカードもいけるよ!」
また、EやLなどビジネスビザの専門家は、EB-1やEB-2と呼ばれるグリーンカードの専門家ではないことが多いのですが、EB-1 案件の専門家から、いきなりグリーンカードを目指すこともできると言われたこともありました。
グリーンカードはステータスが高く便利だし、確かに数は少ないながらも周りで成功例はあったので、興味は持っていたのですが…。かかる費用が比較的高かったことと、Oビザの方が難易度が低く聞こえたので、まずはOビザを取得してから、将来的な切替えを検討しようと決めました。
5. 後編につづく
今週は以上です!
ビザ問題ははセンシティブながら情報格差があるな、と常日頃から思っているので、特にスモールビジネスやフリーランサーにとっては、Oビザも手段としてはあると知って欲しく、本記事を書きました。
またありがちな悲劇シナリオとしては、約6ヶ月間ESTAなどでアメリカに滞在し、5ヶ月目になんらかのビザを延長しようとした結果、移民局(USCIS)から拒絶された末アメリカから退去を迫られると言った例。そうならないためにも、ぜひOビザをプランBやプランCとして念頭におきながら申請に臨んでもらえたらと願っています。
さて、ここまでの流れでいくと軌道にのってそうな私たちのOビザ申請ですが、実はこの後移民弁護士と一悶着あり、全然トントン拍子には進みません。その学びも含めて、後編では実際に経験したタイムライン、どのような資料を用意したか、そして気をつけたい移民弁護士の選定のコツをシェアしたいと思います。
みなさま良い一週間をお過ごしください。