vol.8 出来の悪い娘の在宅介護 【ALS(筋萎縮性側索硬化症)】
体が動かないということ
①はあ〜寝不足だわ〜
筋萎縮側索硬化症(ALS)は脳の中の筋肉を動かし運動を司る神経が障害される。手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんと痩せ、力がなくなり、次第に動かしにくくなる病気です。
進行速度や症状は人によって違います。
母の場合、手が思うように動かない、しゃべりにくいと言った症状から始まり、進行は速く2017年に入ってしばらくすると、手足は動かなくなり、呂律が回りにくく声が出づらくなっていました。この頃から介護保険制度を利用して、日中はヘルパーさんに来ていただいて、おかげさまで何とか仕事内容は変更せずに続けられている状態でした。夜間は私がメインで母のことをしていたので、寝不足の日々が続きます。
なかなか仕事から帰ることができないときは、帰る時間まで弟家族がいてくれ、夜間に仕事があるときは、弟が代わって泊まってくれるので、仕事は支障なく続けられました。
診断後は、「ALSでも100%、私がお母さんを幸せにしてみせる!」と自信があったのに、寝不足が続くと、体が思うように動けなくなってきます。
仕事で介護をするときは何ともないのに、家で母の介護をするときは、なかなか体が動かないんです。体が重すぎる・・・
何でだ?・・・
たぶん、家は1日働いた体を休める場所で、頭のスイッチ、体のスイッチもOFFになっているんですね、ぼけ〜っと、だら〜っとしていたいところに、母のタイミングで呼ばれるわけですから(当たり前だけど)、神経が急にピンッとなるわけです。子育てのときは若いし、母ということで子育て用パワーが出ていたんですかね?
徐々に母の声は出にくくなってきていたので、うとうとしていても、母が呼ぶ声を聞き取れるようにと、神経のどこかが起きているような感じで寝ているものだから、良質な睡眠からは程遠いんですね。
元気体質の私だけど、呼ばれてハッと!!立ち上がると、クラクラ〜っとめまいがするようになりました。母をみているので「病気にもなれない」と思うと余計に神経が休まらなくなっていたんですね。このクラクラはどうやったら治るんだろうとスマホで検索しても
「しっかり睡眠をとってください」「急に立ち上がらないでください」と書いてある。
・・・ええっ
それができないから、こうなってるんですけど・・・。
「う〜う〜」と呼ぶ母の声に、口から出る言葉が「はいはぁい」→「ちょっと待っといてー、分かってるって〜」に変わってきていました。よしっ!次はからは、明日こそは「ちょっと待って」を言わないようにしようと何度も思うのに・・・
退院後数か月間のような、余裕がなくなっていました。
②文字盤が新しくなる
↑孫、がんばれっ!
看護学生さんお手製の文字盤を指でさせなくなり、話すことを諦めていき、表情も暗くなっていく。透明な文字盤にすれば、文字を選び、目線を合わせることで話せるんじゃないかと作ってみる。
「おお〜話せるが〜!」と思っていたら透明度が悪く、話せば話すほど目が疲れてくる。
なんかいいものないかと探していたら、ありました!
これが届いて使ってみると、す、すごい!すごすぎる!ぜんぜん目が疲れない。さすがプロは違うわ。透明度が半端ない!
これでまたお母さんと話せる。やっぱりコミュニケーションって大事ですね。お互いの気持ちを伝えるのは、ほんとに大事。
さて、透明文字盤を使って母が一番に伝えたこと、わかりますか?
ヒントは・・・最初の文字は「あ」でした!
そうだよね〜やっぱりその言葉だよね〜と文字盤を次の「り」のところに合わせようとしたら・・・、
・・・ん?どこ?
次の文字は「ーす」???
「あーす・・・かってきて??・・・」
はっ??「アース(の虫除け)買ってきて?」
虫が来ても自分ではらうことができない母にとっては、蚊が飛んで来ることのほうが気になっていたのね。そりゃそうだ。私もぜったいそうなるわ。
動けなくなった体の母は、自分の身を守ることが一番で、「ありがとう」なんて言うことは次のまた次です。おお〜こうやって、人って自分目線で人を見て、自分の目線で解釈しているんだって気づきました。言葉でのコミュニケーションが取りにくい高齢者の介護を長年してきて、今、大切なことに気づけました。
そして、「ありがとうじゃないんかいっ!」と言い、笑いました。
ALSは意識や五感は正常で知能の働きも変わらないと言われているだけあり、状態に合わせた道具さえあれば、コミュニケーションは取れるんです。まだまだ新しいコミュニケーションツールが開発されると願っています。
③手足がガチガチになっていく
運動神経の下位運動ニューロンは上位運動ニューロンから指令を受けて筋肉を収縮させるんですが、母の場合、上位運動ニューロンが下位運動ニューロンより優位になるタイプで勝手に筋肉が収縮してガチガチになるんです。リハビリをしていてもなります。
初めに手指が曲がっていき、次いで足がガチガチになり曲がらなくなりました。足が曲がらなくなったのは突如にです。
足浴の方法や横に向いたときに痛みが出ないよう、頭の位置や肩の位置が安定する方法をリハビリの先生とヘルパーの皆さんに伝えていたときです。終わった途端に動かなくなりました。
さっきまで、何度も曲げ伸ばししていた足がピンっと突っ張って動かない。曲げようとしても、ぜんぜん曲がらない。
こんなことありますか?
ALSが投げかける課題は大きすぎて、私は無力すぎます。こんなに急に動かなくなる?・・・あんなに毎日動かしてがんばってたお母さんの足がだよ?こんなに早く、こんな事になる?
もう車いすにも乗れんが・・・誰にもこんな姿見られたくないって、どこにも行きたくないって言ってたけど、本当にいけれんが。
もう楽しみを持つこともあきらめろって?
逃げられない事実を目の前に我慢しきれず、母の手をとって泣きました。二人で泣きました。どうにもならない大きな壁を前に。
泣いて分泌物が増え、咽せて苦痛な表情を見せる母の顔を見て我にかえりました。
「もうなし、もうなし」と言いながら、涙を止めて、母の前で泣くのはもう最後にすると決めました。
VOL9へ
#ALS #介護 #文字盤 #コミュニケーションって大事