グルメな夫にだす究極のブータン料理、エマ・ダツィ
たまに私が料理をしても、グルメな夫の舌の基準に合うことはまずない。しかし、ひとつだけ大丈夫な料理があることに気づいたのは、与那国島で買ってきた花塩のことを夫に話している時だった。
「与那国島の塩って、東京の有名レストランのシェフが買いに来るほどおいしい塩なんだって。」
「へえ・・・。使ってみたいな。」
その時、塩だけで味付けをするブータン料理、エマ・ダツィのことを思い出したのだ。
グルメな夫と一緒にブータンを訪れたとき、旅行会社に頼んでプライベートな料理教室を日程に入れてもらった。その時習った料理のひとつがブータンの代表的な料理、エマ・ダツィである。「エマ」は唐辛子、「ダツィ」はチーズ。真っ赤な唐辛子がブータンの伝統家屋の屋根に干されている風景とともに、ブータンの一番の思い出になっている。ブータンではガイドさんとドライバーさんがコンビで旅行客の面倒をみてくれる。私がエマ・ダツィが好きだと言うことに気づいたガイドさんは、ある日の昼食にエマ・ダツィをわざわざ出してくれた。実はその日の旅行客のランチのメニューにエマ・ダツィは入っていなかったのに、自分たちの食事のエマ・ダツィをわけてくれたのだ。
「お客さんが幸せであることが大事なことだから。」
ガイドさんが言ったのは、GNP(国民総生産)ではなくGNH(国民幸福量)の増
大を国是として掲げるブータン人らしい言葉だった。ブータン人が好むエマ・ダツィは激辛だ。グルメな夫の弱点はインドネシア人のイメージに反して辛い物が食べられないこと。グルメな夫をしり目に、私はひとりブータン料理を堪能したものである。
エマ・ダツィは作り方が簡単で、私でも作れる稀有の料理である。料理を教えてくださったのは、ブータン人と結婚してブータンに住んでいる表雅子さんである。彼女によれば、キノコを入れるとおいしくなるとか。ブータンはキノコ王国で、おいしいキノコに事欠かない。日本ではしめじ茸が合うと教えてくださった。野菜やキノコから水分がでるので、料理の際に水を加える必要がなく、チーズを絡めると濃厚なおいしさになる。チーズはとろけるチーズではなく、ふつうのチーズがよい、と、これも表さんから教わった。
日本でエマ・ダツィを料理するときは激辛の唐辛子ではなく、甘長唐辛子や万願寺唐辛子を使うので、辛いものがダメな夫も食べられる。味付けは塩だけだから、野菜から水分が出るように最小限の塩だけを加え、ほぼ味付けしない状態で食卓に出し、食べる人が自分で塩味を足せばよい。与那国島のおいしい塩ならグルメな夫に文句はないはすである。かくして、グルメな夫にだす究極の料理、エマ・ダツィが食卓に登場した。
しかし、もうすぐ甘長唐辛子のシーズンも終わりだ。エマ・ダツィがだせなくなったら、次はどうしよう・・。グルメな夫と暮らす日々の悩みはつきない・・・。
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