異世界転生
ピピッ
カード型のPASMOから、
最近やっとモバイルPASMOに変えた。
春に引っ越して、徒歩通勤からバス通勤になった。しばらくはカード型のPASMOをつかっていたけど、わざわざ現金を下ろしてチャージをしなければいけないのが次第に面倒になり、その手間を省きたかったのと、引き落としにすればカード会社のポイントが貯まるじゃん、と、令和3年も半年を過ぎてやっと気づいたからだった。
SuicaでもPASMOでも、そんな機能何年も前からあったのに、最初にタッチした瞬間、言いようのない、近未来に来たような、ワッとした高揚感があった。
まるで自分は最先端を行っているような、みんながまだやってない、最新技術を会得したような気持ちだった。すごいことだと思った。わたしって超スマート、かっこいい!
それ以来わたしはひどく得意げな気分で、行き帰りのバスで、休日の駅改札で、コンビニのレジで、あの高めのピピッを、鳴らしている。
チャージする時も好きだ。
指紋で簡単に支払いが決定する瞬間、ホームボタンに置いた親指がドクンと鳴って、わたしとスマホがリンクする。ああなんて快感。SF映画の主人公みたい。わたしって超スマート、かっこいい!
そんなことを今日も思いながら、朝9時に渋谷に向かい、頭のMRIを撮った。「MRIを撮るのははじめてですか?」と聞かれて、「はい」と答えたのに、いざ寝そべって機械のなかに身体がとりこまれたとき、なんだか2回目な気がした。
ピー!ピー!ビビビビビビ!
大きな音が身体を包んで、私がスキャンされていく。
中は音がうるさいからと、渡されたヘッドホンからはメリーゴーランドでかかってるみたいな陽気な曲が流れていた。
ときどきそれが聴こえなくなるくらい、ピーー!!!ビーーーーー!!!!とまた大きな音が鳴り響いて、この音、聴き覚えがある気がする…なんだか懐かしいかも…と、瞑った目の奥でぼんやりと思ったりしながら、そのまま体感では15〜20分くらいスキャンされた。ほんとのところは分からない。2年とか、3年くらい経ってたかもしれないし、意外と5分くらいだったかもしれない。
そういえば、7〜8年前に手を怪我をしたとき、撮ったかピーーーーもしれないな、
でもこんなだったっけな。ビビビビ
手だけだったのかな。
そうだ、もしかしたら、SF映ビビビビビビ画みたいに、こっそり別の世界に転送さピーーーーれたのかもしれないな。わたしは気づいてないけど、そうやって世界のバランスをピーピーピーピーピー取ってる組織があって、秘密裏に活動しているのかも。
ピーピーピーピー
ビビビビビビビビ
「終わりましたよ〜」
声をかけられて、ぼんやり目を開けたら、スキンヘッドのおじさんが居た。「ゆっくり起き上がりましょうね、気分悪くないですか?」「はい」
あれ、さっき機械に入る前に居たひとは、髪があった気がしたな。眼鏡もかけてなかったような気がする。
そういえば、診察のときの先生、やたら耳たぶがでかかったような。しかもやたら「オーケーオーケー!」言ってたな。もしかしたら国際化がすすんだ未来のひとなのかも。未来のひとの耳たぶは、みんなあんなに大きいのか。でもきっとわたしは気づけない。気づけないように上手くできてる。
ぼんやりした頭のまま受付で7,850円を現金で支払って渋谷駅に戻ると、外は朝より寒かった。わたしはさっきよりちょっと寒い世界に送り込まれていた。
ついでにそこは、ホットのカフェモカがやたらおいしい世界でもあった。
おわり
大晦日に受けたMRIの話です。
半年越しの投稿
記憶、こころの一句。
「仰向けで そっとあの声聴く
こころ此処にアラブ首長国連邦」