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『蛇娘と白髪魔』(1968年12月14日・大映東京・湯浅憲明)妖怪・特撮映画祭で上映

角川シネマ有楽町「妖怪・特撮映画祭」で、湯浅憲明監督『蛇娘と白髪魔』(1968年12月14日・大映東京)をスクリーンでは35年ぶりぐらいに。初見は銀座大映で『妖怪大戦争』(大映京都・黒田義之)と二本立てで。幼稚園の年中の時で、やたら怖かった記憶がある。

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空前の妖怪ブームのなか、10月にNET系でスタートした「妖怪大作戦 河童の三平」(東映)で、河童の国のお姫様・カン子ちゃんを演じていた子役・松井八知栄ちゃんをヒロインに迎え、年少観客にも親しみやすかった。

少女漫画界で圧倒的に人気だった楳図かずお先生の少女フレンド連載の「赤んぼう少女」「うろこの顔」「紅グモ」を原作に、東映の「警視庁物語」シリーズ全作を執筆した名手・長谷川公之さんがシナリオ化。子どもたちが、怖いと思う様々なエッセンスを投入。「ガメラ」シリーズで、子どもの心を掴んでいた湯浅憲明監督の演出も、これでもか!のてんこ盛りで楽しいのなんの!

菊池俊輔さんの音楽も、不気味でカッコいい。やはり菊池サウンドで育った世代には、たまらない!

恵まれない子どもたちの、カソリック施設「めぐみ園」で暮らしてきた小百合(松井八知栄)は、両親が見つかり退園。父・南条吾郎(北原義郎)は生物の毒の研究の権威で、小百合が南条家に着いた夜、アフリカへ旅立つ。屋敷には、半年前、交通事故で記憶喪失になり、言動がおかしい母・南条夕子(浜田ゆう子)は挙動不審。小百合は、不気味な住み込みの家政婦・鬼頭しげ(目黒幸子)と不安な最初の晩を過ごすことに。

トップシーン、南条家の通いの家政婦が、毒蛇だらけの五郎の研究室で惨死する。警察の所見では、心臓麻痺での突然死。遺体を運ぶ警察車両と、入れ違いに、小百合をのせたクルマが南条家に到着する。ああ、これだけで怖い!

で、ここから小百合ちゃんと、年少観客にとって82分の恐怖体験が始まる。深夜、お母さまが、仏間にご馳走を運び、仏壇に話しかけている。お母さまが出たあとに、小百合が覗き込むと、皿は空になっている。誰かいるのか? 素直な小百合ちゃん、お母さまにそのことを訊ねる。聞かなきゃ良いのに!

仏間に招かれ、仏様にご挨拶すると、位牌の奥から小百合ちゃんを見詰める眼! きゃー! これは怖すぎますよ。

続いて小百合ちゃんのベッドに、天井の穴からヘビが降ってきて、キャー! 家政婦のしげには「嘘をついている」と取り合ってもらえない。ああ、どうしょう! お父さまはアフリカだし…

やがて、この家の屋根裏部屋に、だれかもう一人住んでいることが明らかになる。小百合の姉・タマミ(高橋まゆみ)だったが、彼女の口はヘビのように裂け、背中にはウロコ、カエルに舌なめずりする蛇娘だったのだ!

というわけで、こころ優しい小百合ちゃんは、お姉さま・タマミと一緒に暮らすことを受け入れる。しかしお母さまは、お父さまが帰ってくるまで…と期間限定で。それはなぜ?

物語が進むにつれて、怪談→モンスター→サスペンス→謎解きミステリーと、恐怖の質が変化していく。ホラー映画のようでいて、実は財産を狙う人間の欲望が1番怖いというサスペンス映画なのである。同時に、容姿にコンプレックスを持つタマミの、可愛い小百合への嫉妬。歪んだ心によるイジメの恐怖が全面に出てくる。

タマミはモンスターではなく、心身ともに傷ついた少女であることが、少しずつ明らかになる。小百合はそんなお姉さまを、不憫にすら感じ、タマミのいうがままに屋根裏部屋に軟禁されることを受け入れる。

この健気さ! お母さまは、そんな小百合に愛おしく思うが、わがままなタマミの虐待はますますエスカレート!

恐怖がピークに達するのは、ある夜、屋根裏部屋の窓に、容貌怪異の白髪魔が現れて、小百合を襲う。後半は、この白髪魔が大暴れして、被害者まで!

クライマックス、全ての謎が溶けてゆくが、南条家は白髪魔により大炎上! 小百合ちゃんに生命の危機が迫る!白髪魔の言いなりになっていた蛇娘は?

のちに大映テレビが得意とした、アイドル受難ドラマ「赤いシリーズ」のプロトタイプのような、出生の秘密。赤ちゃん取り違えなどの運命の皮肉ドラマに、それを利用して財産を狙う人間の我欲の恐ろしさ!

若き日の平泉征さんが「めぐみ園」のお兄さん役で、単車を飛ばして小百合ちゃんのピンチを救うヒーローを担っている。そして、あの!三宅邦子さんが、慈愛タップリに「めぐみ園」の園長を演じているが、後半の展開は、何度観ても驚愕してしまう。

長谷川公之さんのシナリオの構成は、さすがで、怪奇映画風のケレンたっぷりに「警視庁物語」シリーズ同様、犯行を犯す側の心理や欲望をきちんと描いている。

大映東京は、この作品に続いて「猫目小僧」の映画化を企画していたが、残念ながら実現しなかった。

よくできたジュブナイル・ホラー・サスペンス。この夏、妖怪・特撮映画祭で上映中!

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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